君の声、君の夏


飲食店街の狭い路地で
打ちあがる花火、
ぽとりと落ちる線香花火
照らされる顔のなかに
ひとりだけ
顔を白く塗られた浴衣姿の女性
君のいない部屋で見つけた
一枚の古い写真だった

  このひとは誰?
  ・・・おかあさん

  何故顔が塗られているの?
  ・・・この写真の向こうにはすぐ海があるのよ
   景気のいい時代で町は賑わっていたの

  ここには君もいるの?
  ・・・たぶん・・・きっと
     いて欲しかったおかあさんと、
     幸せだったはずのわたしが

深夜の
人気のない路地で
君は一人
線香花火に火を点ける

  ここから海は遠いね
  ・・・遠いから、いいのよ

ここにあるのは
君の声、君の夏
もしもこれが
一枚の写真になるならば
その何処かに
どうぞぼくの居場所がありますように