冬の雨


乱れがちに歩む
雨に導かれて
森の奥の
古い扉の前に
いつのまにか佇んでいた男
頭上に翡翠の光が揺れ動き
軋みながら開く扉の奥に
抱かれるように消えていった

  鈴なりの花
  鈴なりの木の実
  まあるい沼に
  まあるい顔が
  浮かんでた

    空耳のような歌に曳かれて
    太陽の野原を少年は歩いていった
    棘のある花々で素足を傷つけながら
    森のほうに向かっていけば
    青空に溶ける雲のように
    澄んだ風がからだにあふれる

  鈴なりの鳥
  鈴なりの星
  ああおい森に
  ああおい女
  死んでいた

雨に冷えたコートのなかで
脈打つ血にふるえる胸
氷の芯に
ふれようとする指の
かげにわななく紋様のあでやかさ

遠く消えていくかすれ声
空虚な部屋には
冬の透明な雨をたぐりながら
女ひとり
ひっそりと微笑んでいる