岸辺


世界の凍てついた軌道
誰かが花を抱いて歌っている
灰の炎の向こうに
見知らぬ街の曲がり角
伸ばした腕の先には
冷たい女の髪の手触り
血の乾いた窓辺へと
見えない星たちのざわめきが沈み
雪道を滑り降りる子供の背に
母のまなざしが遠くひろがる
雨はやがてすべてを蝕むだろう
リラの花影が無数にふるえ
握られた幼い手
澄み切った笑い声が
倒れた道しるべのように
沈黙の丘に埋められる
なぜここに? と女は問いかけ
わからない と男が呟く
海はよどんだ灰緑色
空は脳のように乱れ
遠く突き出た岬の向こうに
鮮やかな青白い山肌
寂れた漁村に
夕の明かりが灯りはじめる
横たわる男は
暗い屋根の列を見つめる
枕元にころがる早生蜜柑の色は
幼い陰唇のふるえ
薄闇に雨の気配がひろがり
女は手探りで
死んだ男の髪にふれる