心の旅


長い旅だった、と
ことさらに繰り返してみても
ここには誰もいない

ペンキの褪せた
古い看板が引き下ろされ
また街が変わる
そんな時だ、
いつも心が呼び出されるのは

やせ衰えた老女が
暗い病室で
窓の向こうの花火に
わずかに首を傾ける
少年のわたしは
人ごみを離れ
闇に続く堤防の道を
一人歩いていった
(そんなことが、
あったろうか?)

長い旅だった
生まれようとする心よ
新しく手に入れた恋のように
少しもてあまして
おまえと戯れる光景の暗さを
また忘れていくだろう