雨のかすかな抑揚に
可愛い小さな黄色い傘が
いくつも林の向こうに消えていく

 (誰かが、わたしを見つめている)

薄闇をふくむ白樺の下に
ひっそりと佇む女
うす紫の空を見上げながら

 (あなたが去ってから
 もう何年になるだろう)

   スーパーの第二駐車場
   人目を避けて車を隣り合わせ
   激しく抱き合う二つの影

 (何かを取り戻すように、そして
 別の世界で出会うように)

空耳のように響く汽笛
林の向こうの街は明かりを灯し
ささやかな幸福と不幸が
食器をテーブルに並べている

 (やがて来る終わりをわかっていたのに
 それが来ることを信じていなかった)

   PTAの最後の夜
   待ち合わせた駐車場で
   苦しげに顔を伏せる男

 (信じたくなかった・・・)

夜の奥から降る雨のなかに
静かな祈りのようなものがひろがる
水銀灯を浴びて光る白いブランコ

 (わたしはこのまま
 朽ち果てるだけなのかもしれない)

   乾いた髪をなびかせながら
   不意に見た夕暮れの光に
   おびえて佇む少女の顔

 (それでも、わたしは・・・)

誰も乗っていないのに
ブランコがかすかに揺れ始める
揺れるたびに聞こえる食器の音や笑い声
侮蔑の叫びや、残されたものの呻き声

 (わたしは・・・生きる)