秋の光


逆光のなかの黒い牧師
彼はゆるやかに
窓から窓へ歩んでいった
静まり返った街に
子供たちの声だけが響く
彼は
コスモスの花瓶の前に立ち止まり
不意に振り返る
「わたしは・・・」
その言葉は揺りかご
わたしは少年の日の光に包まれ
まぶたを閉ざした
「わたしは・・・道しるべを読み間違えた
俗人なのかもしれませんね」
黴臭い聖書の横を通り過ぎ
忘却される言葉
そのなかでわたしは息絶え
ふるえる蒼穹を見た
どうして
幸福と呼んではいけないのか
わたしは
憎むことからも
憎しみから解き放たれることからも
自由だった
彼はわたしの前に佇み
表情は逆光で見えない
「どうして、あなたは・・・」
そう呼びかけようとしたはずなのに
瞳は窓の外に開かれた
網をかぶったようにうなだれたわたしが
空想に耽り独り言を呟くわたしが
無数に街路を往来していた
そのなかを
彼の後姿が遠ざかる
宙をすべるように軽やかに

花瓶の横には
逆光に照らされた写真
誰もいない部屋の中
不意に思い出したように
「どうして、あなたは・・・」
そう呟くように
呼びかける