終わりの橋


幾つの橋を渡ってきただろう
霧のなか
雨のなかを
そして、ここに来た
漆黒に仄かに白い石の橋
枯れ木の川岸に揺れる無人の小船

償われるべきものは
すでに償われていた
夕日のさす誰もいない部屋を
窓から覗いていたあの秋も
それでもわたしはここにいる
まだ
渡るべき橋があるかのように

蝋の指を重ねて
夜に唇を押し付けた
風の鳴る遠い虚空に
浮遊する鳥の遺骸
かすれ声よりもひそかに
無数に共鳴する叫び声

小船の上に花開く血潮
失ったと信じていた鍵は
汗ばむ掌のなかにある
ここに、来た・・・
押し黙る冷たい橋
記憶よりも暗い林に
青緑の光が灯る
川水はただ岸をなめ
わたしを待つものなど
何もない

それでも
この橋を渡る
不意に重くなる背には
薄黄色に光る幼児
その頬に唇を押し付け
蝋の指を開いて
川面に落ちていく

いつか夢のなかで聞いたような
澄み切った笑い声
そうなのかもしれない
この川こそ流れる橋
遠ざかる高みに
「明日」と記された名前
魂たちが渡った橋だ