住所


H町2−9
電話帳のあなたの住所を
夢のなかで
何度も通り過ぎる 

夜明け前
小さな庭先に咲く赤い花
あなたの眠る窓は
カーテンに閉ざされ
茂みの奥から
子猫の鳴き声が聞こえる

一度も見たことのない家は
夢のたびに鮮やかになる
しかし
あなたの姿は見えない
何かに定められた掟のように

ほんのわずかの勇気で
あなたを訪ねることもできるだろう
いまさら告げることなどなく
何の意味もないとしても

いつもと違う夢
夜明けの空から
一機のヘリが墜落してくる
無念を叫ぶマイクの女の声
破片が散らばり
女の死体が投げ出される
うつぶせのその姿を
私は震えながら
冷めた目で見つめていた

暗い家に戻り
名前も思い出せないまま
電話帳の住所を探す
H町2-9
H町2-9
震える指先で
めくり続ける