灰のなかの炎


地表を覆う花の影に
朝露のように灯る光
夜なのか昼なのか
定かならぬ薄暗さ
わたしは扉を開き
黒い石廊に積もる枯葉を踏みしめる
夢の胎児のように身をふるわせる
埋もれてしまった記憶たち
細い指のめくるページのなかに
色あせた古い地図
頬寄せて見入った夜明けが
壁の割れ目に仄かに光る
(鍵を何処に捨てましたか?)
雪道をすべりおりた子供たちは
もう帰らない
(あなたを閉じ込めた鍵は?)
音もなく降る灰は
古い街灯を覆い
捨てられた三輪車を覆い
わたしは薄暗い野菜倉庫に立ち止まり
奥に佇む老女を見つめる
受胎した腹をさすりながら
見上げる目のなかの光
そこから生まれる炎を
枯葉を燃やし尽くす炎を
わたしは信じた
信じ続けていた