幻想領域


わたしたちは
わかりあうことが
できない
互いに未知な
存在であることも
できない
何ひとつわからない
そう叫ぶことすら
できない

夢の円周に
黒い風がめぐっている
丈低い草が乱れ
泥川が丘のふもとを濡らす
鉛のように垂れる雲
枯れ始めた木々
あなたの追憶

わたしの十字架は
あなたの骨片で
できている
あなたの喪服は
わたしの頭髪で
できている

青く凍った乳房に
木の男根が枝を伸ばす
開かれた唇の奥
赤い咽喉に蜜が滴る
遠い空は
永遠の灰色
陸橋から小学生の見下ろす
銀色の線路の上に
あなたが

  星ノ光ニハ
  潮ノ匂イガスル
  ススキガ波ウチ
  金ノ人形ガ
  浮カンデハ消エタ

見失われた歳月から
こぼれおちる砂
いったい
誰が孤独なのか
誰が愛されているのか!

・・・夜明け
死児を抱いた
あなたの写真が
霧のように燃え尽きる
透明な風が低く吹き込み
時間はいくつもの層にわかれ
まだ目を閉じたままの夢のために
まだ眠りを許されぬ震える指のために
一滴の光が・・・

わたしたちは
愛しあうことが
できない
心を閉ざし雲を追うことも
できない
わたしはただ
見つめる
なすすべもなく
見つめ続ける

今 生まれおちようとする
あなたを