<船長 あなた方と私は、はっきり区別ができますよ。私の首のうしろには光の輪が着いているんですよ。よく見て下さい。よく見ればすぐに見えますよ。これが証拠なんですから>(「ひかりごけ」武田泰淳)
この小説ではかなりアイロニカルな大岡昇平の「野火」への言及がある。「自分は殺しはしたが食べなかった」などというのは文明人の思い上がった倫理だ、というような。しかしわたしはそれをまともに取らない。田村一等兵もすでに食べた人間なのだから。「野火」の倫理(倒錯)はそのようなものではない。
この船長の沈黙と「私は我慢しています」という言葉にも共同体の倫理とは異質な倫理性がある。