2 いつか見た夢「死者の街」(2005/9/16)


 山を隔てた都市が核爆発でほぼ消滅した。近隣の都市で一番施設等が充実したわたしの住む市が被害状況を把握する前線基地に選ばれた。何故かわたしはそこのスタッフの一人として働くことになった。

 放射能汚染を考慮して、データ収集のための機器を投入したが、原因不明の電波障害が頻繁にあってなかなか機能しない状況が続いた。それでも時々画面は荒廃した街を映し出したが、とても生存者がいるようには見えなかった。

 この街のはずれにある或る交差点の付近に灰のようなものが降っているという情報が入った。「死の灰」ではないかと心配されたが放射能は含まれておらず、それが何なのかわからなかった。

 わたしはそこに調査に出かけた。特に灰の降り方が顕著な交差点の倉庫はがらんとしていて、かなり以前からほとんど使われていないようだった。数人の住人と話しているうちに彼らから奇妙な噂を聞いた。老若男女問わず、この近隣の人々が灰が降り始めてから多くの亡霊を目撃しているというのだ。一人の男は低い声で「ここに死者たちが自分たちの街をつくっているんじゃないかという不安を皆持っているんです」とささやいた。

 隣の都市には地域の中核になる発電所が存在していて、爆発の後この街の電力事情は悪化していて夜でも頻繁な停電が起こっていた。隣で起こった信じがたい悲劇とこの街の生活状況の悪化が住民にパニックの前段階とでも言うべき心的状態をもたらしているのかもしれない。
 知人の女性が電話で近況を知らせてくれた。夜間急に停電すると世界が急に静かになり、息をひそめるように回復を待っていると死者たちがそばにいるような気がするという。噂はかなり広範囲に広がっているらしい。わたし自身も説明はつかないが「死者の街」というイメージに奇妙なリアリティを感じはじめていた。

 曇天の夕暮れ、灯り始めた街灯に灰が降りつづけていた。壊滅した都市のある方向の山稜が市街地が存在していた頃のように仄かに赤く染まっているのが見えた。