1 いつか見た夢「墜落」(2005/9/14)


 秋の夕暮れだった。山々は紅葉し、それも終わりかけていた。水田の畦も茶色に枯れた草しか見えない。

 しかし何故か春作業と同じくすべての水田には水が張られていて、秋の空と山々を静かに映していた。鬱病で入院していたはずの隣家の主人がわたしの水田と隣接する田でトラクターを走らせている。

 もちろんわたしの水田も水を湛えていた。自分で作業したはずなのにその記憶も目的もあやふやでこの光景に違和感を禁じえずにいた。



 ぼんやり畦に立っていると、ほとんど無音のまま南西の方角から北に向かって煙をあげた旅客機が低空を飛んでいるのに気づいた。かなり近い。

 旅客機は大きく旋回し、東の方からこちらの方にゆっくり降下してくる。ほとんどわたしを目掛けてくるように見えた。

 わたしは畦を走り機体の翼をぎりぎりでかわした。機体はそのままわたしの水田の北側の奥に突っ込み大破した。前部がめりこみ翼が折れている。

 大惨事だった。しかし不思議にあたりは静かだった。わたし自身、「これは水田が賠償の対象になる」と妙に冷めたことを考えていた。しかしとにかく通報しなくては、と携帯を取り出した。

 すると水田の奥の山道の入り口で何かを測量しているらしい数人の作業服の男の一人がこちらに向かって大きく手を振るのが見えた。自分が連絡するからいい、という合図らしい。

 わたしは携帯を胸ポケットに戻した。少しも騒然としてこない光景のなかで、残照を浴びた暗い山肌をぼんやりと眺めた。その視界の端には何事もなかったようにトラクターを走らせる隣家の主人の姿が映っていた。