1 遭遇(2004/6/21)


 午後台風6号の接近で雨が降り始めていた。山のふもとにある水田に水を見に行くと畦の奥のほうに林を背にしてつがいの鹿が立っていた。私が車を止めて彼らを見つめると、彼らも熱い(?)まなざしでこちらを見ている。車を降りるとか大きなアクションを起こせばすぐに逃げてしまうので、五分ぐらい動かずに見詰め合った(笑)

 遠目にも目がくりくりしていて可愛い。角の感じから妻らしい方は畦草を食んでいる。夫はじっとこちらを窺っている。(そこの草はいくら食べてもいいから田んぼの稲は勘弁してよ)とテレパシーを送った。秋には食い荒らされたり寝床にされることが多いからだ。

 遠くを走る姿は何度も見たがこうして見詰め合うことは滅多にない。昔代掻き中に同じように見詰め合ったことがある。その時はわりと近くで熊が出現して大騒ぎになっていた。被害が多少あっても鹿なら可愛いものである。

 その時飲みに行って、スナックのママに熊騒動の話をした。まだハンターが探していてパトカーが巡回しているような状況だった。

 「いや〜熊で大騒ぎですよ。くまった(笑)
 ママは私の顔を見て突っ込みを入れるわけでもなく鼻で笑った。(ええ〜そんな)あまりに嫌な間に私はたじろいだ。何とか挽回しなければ・・・
 「そういえばこの前田んぼで鹿と見詰め合ったんですよ。しかったら逃げちゃった(笑)」

 ・・・致命傷だった。ママは黙殺して店の女の子に「ビール注文したの?」とたずねた。私はビールグラスを両手で包んで心の中で号泣していた。