1 支配人伝説 1(2004/2/5)


 ホテルに97年から一年間しか在籍せず行方不明(汗)になってしまったMさん。実質1シーズンしか一緒に働かなかったが、いろいろな意味で忘れられない人になった。

 10月の終わりに、また農閑期にお世話になりますとホテルに挨拶に行った時、前シーズンのメンバーがほとんど辞めてしまい(この業界では案外珍しいことではない)新しい支配人と彼の連れてきた配膳サービス会社の人数人がホールを主導している状態だった。その支配人というのがMさんである。

 季節はずれのビールパーティの最中で、パントリーで社長と話しながら中の様子を覗いていた。奥の正面入り口の前に、禿頭で口を一文字に結び辺りを見回す黒服のMさんが見えた。(何だかプロっぽい怖そうなひとだな)というのが第一印象だった。

 そして緊張しながらの初出勤。二階の大ホールのロビーでMさんと会った。挨拶すると、彼は大きな目をぎょろぎょろさせながら、しかし妙に愛想よく近づいてきた。
 「やあ、どうも。社長やみんなから話は聞いてるよ。よろしくたのむねぇ」
 気が弱そうで口につばを溜めながら話す姿は第一印象のキャラと全然違っていて驚いた。仕事も配膳のひとまかせという感じだった。もともと営業畑のひとで、人手不足の時に専務が連れてきたが、料理長と折り合いが悪く、居心地悪い状態に置かれていることがだんだんわかってきた。

 数年前副支配人格で入ったIさんというベテラン(?)の人が、最初は期待されていたのに調理場の刺身を夜中に無断で食べたというなさけない事由でくびになったことがあったが、それを何となく思いだしてしまった(結局内容こそ異なるがMさんの顛末も似たようなものだった・・・汗)

 彼のエピソードは数多いが、今回は最初ということでひとつだけ紹介して終わりにしたい。

 まず驚いたのが彼のお客さんとの打ち合わせだった。たまたま事務所にいて目撃した光景。年配の夫婦が宴会の打ち合わせに来ていたのだが、Mさんこちらがあせるほどのタメ口で話すのである。

 「とうさん、かあさん、飲み放題はどう?ビール、ウーロン、ジュースに日本酒もあるしさ」

 あんたは寅さんかい(汗)お客さんに「とうさん、かあさん」はないだろう・・・。知り合いでもないのに。

 「あ、そうそうワリッカもあるよ。ウィスキーもあるしさ。ね、飲み放題にしなよ〜」

 ホテルにはサッポロソフトという焼酎しかないんですが。それに普通特に意味がない限りそんな固有名詞ではなく「焼酎」じゃないの。
 Mさんの頭では「焼酎=ワリッカ」という関連付けが刷り込まれているらしい。本人はビール党らしかったが、わたしの知る限り最後まで焼酎をワリッカと呼んでいた・・・

 これは小さいエピソードのひとつに過ぎない。彼が「伝説的存在」となった話のいくつかは、またいずれ。


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