6 ナンパ(2003/10/18)


 20代後半から30代前半の10年間はスナックにわりと飲みに行っていた時期だった。

 一人で行くことも多く、その方が他の客と交流しやすい感じがしたが、別にナンパが目的ではなかった。ナンパは逆に複数で勝負した方が上手くいきやすいのではないだろうか。いかにもナンパが目的といった感じの男性のグループがけっこういたと思う。もちろん狙いは女性のグループで(笑)

 実は一緒に飲みに行った青年部の先輩に頼まれてナンパの片棒を担がされたことがある。

 すでに12時を過ぎて、さすがにそのスナックも閑散としてきていた。カウンターで先輩と飲んでいたが、彼は奥のボックスの5〜6人の女性グループの方ばかり気にしていた。20代ぐらいの若い女性ばかりだった。

 彼はわたしを見て、「頼む、あの娘たちに一緒に飲もうと声をかけてくれ」「えーっ」わたしは断ったが、酔っている彼はいつも以上にしつこかった。

 「だめだと思うけど、声だけかけますよ」その日のわたしもらしくなかった。後にも先にも積極的に声をかけに行ったのはこの時だけだと思う。

 意を決して彼女たちの席に近づき、「あの〜」と言うと全員いぶかしげにこちらを見上げた。(うわ〜)ものすごく悪い予感がした(笑)しかし勇気を出して、「突然ですいません・・・実はカウンターの彼が一緒に飲みたいと言っているんですが、お願いできませんか?」と話した。

 「えーっ、どうする」彼女たちは顔を見合わせた。どうもだめそうな空気だったが、眼鏡をかけたリーダー風の女性が「少しならいいですよ」と了承してくれた。わたしは安堵して彼を呼びにいった。これで役目を果たしたのだから、後は彼次第だ。上手くいこうがだめだろうが知ったことではない。

 彼女たちは地元の精神病院の看護師だった。そこの院長は別のスナックの常連で何度か話したことがある。詩を読んでもらったこともあった(当時は何処でも機会があれば詩を読んでもらう迷惑なおじさんでした・・・)

 知り合いだと話すと多少話は盛り上がったが、どうも肝心の先輩のノリが悪くあまり喋ろうとしない。それどころか、誰かの態度が冷たかったのか、その精神病院についての悪い噂を話しはじめた。看護師が病院の薬をこっそり注射していて、近くの公園に注射針がいっぱい落ちていたとか・・・

 おやじ、なんてこと言うんじゃ〜〜〜〜!

 「何こいつ〜」皆怒りはじめた。そりゃ当然でしょう(汗)わたしが彼のことを謝り、冷や汗を流しながら店から逃げ出した。

 「ひどいですよ〜ぶちこわしじゃないですか」

 彼はすっかり落ち込んでいた。「すまん、ちょっと馬鹿にするようなことを言われたもんで・・・」

 こうしてナンパは無残な結果に終わった。もう何といわれようとこの人の言うことはきかないぞとわたしは心に誓ったが、怒りよりもなんだかおかしい気分だった。もちろんこんな形でのナンパをその後にすることはなかったが。