3 ルドルフとテイオー 1 (2003/10/3)


 わたしは未だに一回も馬券というものを買ったことがない。しかしスポーツとしての競馬に熱狂した時期がある。日本で無敗で三冠を制した唯一の馬シンボリルドルフと、その息子で二冠を制したトウカイテイオーの現役時である。当時のGTレースのスポーツ新聞をまだ取ってあるぐらいに燃えていた。

 1984年春。大学生最後の年だった。わたしは田植えを手伝いに田舎に帰っていた。田植えも終わり温床を片付けていた晴天の日の午後、休憩でテレビを点けるとちょうどダービーがはじまろうとしていた。別に競馬に何の興味もなかったわたしだが、滅多に出ない無敗のダービー馬が誕生するかもしれないという熱気に満ちた実況に引き込まれた。その馬がシンボリルドルフだった。

 大本命馬を擁するレースがはじまった。しかしルドルフの行きっぷりが悪く、手綱を握る騎手岡部にも焦りの様子が見られ、第四コーナーでも先頭の三頭に大きく引き離されたままで、場内も実況も悲鳴に似たトーンになっていた。「あ〜ルドルフ駄目か」という実況の後猛烈な彼のスパートが始まった。東京の長い直線、ルドルフは先頭との大きな差をあっという間に詰めて、並ぶまもなくかわしてゴール。「やはり強い」という実況の叫びのなか、無敗のダービー馬が誕生した。

 圧倒的期待のなかで一時は駄目かと思われたレースを最後には圧勝・・・10番のゼッケンをつけた鹿毛の馬体が春の光に輝く様にわたしはしびれた。重圧をものともせずに勝つその実力と精神力に、就職シーズンを控え不安だらけだったわたしは鼓舞されたのかもしれない。

 翌年、農家を不本意ながら継ぎなかなか仕事になじめないわたしに、シンザン以来の天皇賞制覇による五冠、そしてJCに勝ち有馬記念を連覇した彼の勇姿はわたしには勇気の源だった。彼にはわたしにはないものがすべてあったのである。「強いものが、可能性ではなく現実に強さを発揮する」何処か負け犬根性が心に住み着いていたわたしには本当に眩い存在だった。

 その息子テイオーへの熱狂については、また後日に。