6 いつか見た夢「夜明けの惨劇」(2003/9/16)


 仕事(草刈)をさぼって、部屋でぼんやりしていた。

 6時を過ぎてあたりは暗くなっていた。すこしでもやるか、と外に出るといつもは閑散とした家の周辺が賑やかで、西の丸山近辺には赤色灯がいくつも見える。妹が来て「大変なことが起こった」と言う。

 丸山のふもとにある沼で若い男女数人が切り殺されているのが見つかったという。第一発見者は丸山からかなり離れたところに住むわたしの同級生だった。明け方に奇妙な叫び声を耳にして気になっていたが、午後に車で来て見つけたのだという。はるかに近くに住む人たちが気づいていないのに不思議な話だと思った。

 犠牲者は若い四人の女性と男性一人の計五人で、四人の女性は同じ市内に住む友人で、男性はそのうちの一人の女性の弟だった。噂では彼の男根が切り落とされていたらしい。衝撃的な事件だけに様々な噂が飛び交っているので事実かどうかわからない。何もない沼地に夜中から明け方まで彼らがそこにいたこと自体が謎で、薬物を使用したパーティをしていたらしいという噂も聞こえてきた。なるほどそれならメンバーの誰かが錯乱して仲間を殺したということであり(もちろん犯人はわかっていないが)説明としてはよくわかるがそれも事実かどうかはわからなかった。

 わたしの住む閑散とした農村の空気はこの事件から一変した。すべてが奇妙な膜で覆われているようで、誰もが不安げだった。

 数日後、第一発見者の同級生と会うことができた。連日の事情聴取で彼は疲労困憊していた。なぜはるか遠方の現場の声を聞いたのか自分でもわからないという。「ひょっとしたら夢のなかで聞いたのかもしれない。でもあまりにもリアルだったから・・・」

 わたしは彼と沼に続く山道の入り口に向かった。あたりは暗くたそがれていた。不思議なことに、何の通行止めの標識もなかった。しかし何か見えない壁でもあるかのようでわたしたちは一歩も入ることが出来なかった。ありふれた薄暗い山道を前に全身が粟立つような戦慄に襲われていた。