暗い地下室。わたしは或る組織に囚われていた。
ひとりのメンバーの女性が、わたしを逃がしてくれることになった。
「どうしてですか?あなたも危険なことになるんじゃないですか?」
「いいのよ、さあ、わたしに付いてきて」
出口にたどりついたところで、気付いた追っ手が迫ってきた。
「早く行きなさい!」
「でもあなたがひどい目にあってしまうよ、一緒に逃げましょう。」
「いいから早く!」
重い扉を閉める時、一瞬彼女の悲しい微笑みが目に映った。わたしは胸を引き裂かれる思いで全力で走り続けた。
その僧侶とは何処で出会ったのか。彼は森の中の巨大な仏像のかたちをした建物に一人住んでいた。彼は「ここにいれば安心だ。」と、わたしをかくまってくれた。
単調だが安らぎに満ちた日々が続いた。しかし僧侶はだんだんやせ細り、自分の死期が近いことを、わたしに告げた。
「わたしが死ねばここの結界も失われる。もうおまえを守ることはできない。ひとはいつか死ぬ。おまえは最期の時まで精一杯生きなさい。わたしが死ぬ前に、夜が明ける前にここを出ていくんだ。」
わたしは涙を流しながら彼に別れを告げ、まだ暗い外に出た。振り返り巨大な仏像のシルエットを見上げてから、わたしは全力で走りはじめた。
すすきの原が何処までも続いていた。夕の光りを浴びて黄金に光り輝いていた。すすきのなかに時々黒い影が浮かんで消えた。追手だ。
大きな川がついにわたしの逃げ道をふさいだ。古い木の小屋が岸にあり、わたしはそのなかで藁の上に横たわった。壁の隙間に無数の追手の黒い影が見えた。
(ここで終わりか・・・)
わたしの胸にあふれたのは絶望ではなく、不思議な安らぎだった。あの女性と僧侶の顔が脳裏に浮かんだ。彼らもすでに死んでしまったのだろう。すすきの金色がさらに燃え上がるように鮮やかになるのをわたしは見つめた。