2 いつか見た夢「空白の部屋」(2003/6/5)


 アパートを見つけて、彼女との新しい生活が始まった。古い二階建てで、わたしたちの部屋は一階にあった。彼女の離婚が成立してまだ間もない時で、部屋には家具らしいものはほとんどなかった。
 或る夜、二人の中年の男女が部屋に訪れた。
 取り留めのない世間話をしていた。彼女の知り合いらしい女性は、こんなところに彼女が一人でいる時間が長いのは気の毒だから時々遊びに誘ってもいいかと言う。不安定な時期で不安もあったがわたしは頷いた。彼女は隣で微笑んでいた。
 男のほうが(彼は刑事だった)、或る消息不明の女性のことを話し出した。街灯の光を受けて振返る女性の姿がわたしの頭に浮かびあがった。わたしはその女性を殺していた。強い恐怖感。忘却していた過去の罪が露見しつつあるのか。しかしそれ以上の追及もなく、二人は帰っていった。

 曇った日の午後、わたしはアパートに帰った。部屋を開けると彼女は不在だった。あの女に誘われたのだろうか?仕方がない。ここに一人で閉じ込めておくわけにはいかないだろう。わたしは不安を感じながら自分に言い聞かせた。
 ふと、わたしは、そこが空き部屋の隣室であることに気付いた。彼女は部屋のなかにいた。安堵しながら、ぽつんと部屋に座っている彼女の姿に言い知れぬ寂しさと孤独を感じた。