沖縄の話(4)

フーチバー  / 屋号 / 屋号 その2 / クバ笠



<フーチバー>  2005年3月3日 

昨年末の沖縄にて。
市場で何か美味しい物を買い、ホテルの部屋で、ゆっくり晩ご飯を食べようと
ブラブラ那覇の市場を歩いていた私は
天ぷら屋の店先で、美味しそうな、その揚げ物を見かけたのだ。
外見から判断して、迷わず

「その春菊の天ぷら、2個ください」

と、お店のネーネー(お姉さん)に告げた私。
すると
一瞬、ネーネーは、目を大きく見開いて「ん?」という顔をした後
ニッコリ笑って、こう言った。

「これは、よ・も・ぎ」

あれ、やられた
と、私も笑い出してしまった。



沖縄では、<よもぎ>はとてもポピュラーな食材だ。
香川県にいると、草餅の材料・・・くらいしか思い浮かばないけれども
ウチナーグチ(琉球言葉)で<フーチバー>と呼ばれるこれは
刻んで雑炊の具にされたり
生のまま、沖縄そばにドサッとかけられたり(←これは、青ネギとか三つ葉の感覚で)。
また、
ヒージャー料理(ヤギ料理)の臭み消しに使われたりと
大活躍の存在なのだ。
特に、
沖縄県民でも、<大好き♪>と<絶対にダメ!>のまっぷたつに好みが分かれるという
ヒージャー料理では
その最大のネックである、独特の獣臭を緩和するために
フーチバーの香りが欠かせないらしい。
らしい・・・
と言うのは、
もちろん、私がヒージャー料理に、いまだチャレンジしたことが無いから!
だって、食べた人の体験談なんか聞くと、
ラム肉とか、ジンギスカン料理なんかとは比べものにならないくらい
独特のキョーーーレツな獣臭があるって話で、
どうも<ヤギ料理>という看板を見ると、早足に通り過ぎてしまわないではいられないんですもん。
とほほほほ。


そんなフーチバー。
でも、天ぷらになっているのは、初めて見た。
果たして、お味の方やいかに???

ホテルに戻って食べてみたのだけれども

これが、うっまーーーい!!!

いやもう、美味しかったのなんの。
あまりにも美味しかったので、翌日も買いに行ってしまったほどなのだけれども
なにせ
よもぎの苦味は、高温の油で揚げられることによって、ほとんど無くなり
口に残るのは、香草独特のさわやかさだけ。
見た目は春菊だけれども
春菊よりも、もっともっともっとクセが無く
アッサリと食べられる天ぷらだったのだ。
ホントにさわやか。
そして、これ
買った時点で、揚げてからもう随分と時間が経っていたと思うんだけれど、
それでも美味しかったのだから、揚げたてなら、いったいどれほど美味しいのか?フーチバーの天ぷらよ!



って、↑の写真で見ると、ちっとも美味しそうじゃないですね。すみません。ヘボフォトグラファーで。


ところで、
写真で見てもおわかりのように、沖縄の天ぷらは、衣がかなり分厚い。
そして、その衣自体に塩味が付いているのが特徴で
特に、天つゆとか塩とかをかけなくても、そのまま食べられるようになっている。
だから今回、
フーチバーの天ぷらも、そのまま、衣の塩味だけで食べたのだけれども
他府県の一般家庭で作るなら
他の食材と一緒に、いつもどおり揚げて
揚げたてに塩をふって食べるのがいいのでは
と思う。
ああ、書いているだけで、すっごく美味しそう・・・・・と生ツバが・・・・・。



他府県でも、よもぎを天ぷらの材料にする所はあるのかもしれないけれど
香川県では、
少なくとも私が知る限りでは、材料になっていないフーチバー。
今回、
私と同じで、初めて<フーチバーの天ぷら>を知った皆さん。
是非是非
今年の春、よもぎの若葉が出始めたら、どうぞ、だまされたと思って試してみて下さい。
絶対

「あれ??」

と思う、意外な美味しさに驚かれることでしょう。
人のあまり通らない
綺麗なよもぎをゲットできる場所を見つけたら、迷わず「今夜は天ぷら」♪


<追記:その夜のディナー>



写真上から時計回りに
<沖縄の県魚グルクンの唐揚げ>
<天ぷら:フーチバー、インゲン、白身魚>
<クーブイリチー(昆布の炒め物)(材料:昆布、こんにゃく)>
<フーチャンプルー(麩のチャンプルー)(材料:麩、からし菜、卵)>
飲み物は、泡盛と赤ワイン

ごちそうさまでした。


<屋号> 2005年3月9日      

以前の<沖縄の話>にも書いたけれども、
沖縄の地元新聞紙<沖縄タイムス>や<琉球新報>には、訃報広告のページというのがある。
他府県の新聞や、全国紙では
企業の会長や社長が亡くなった時、
そのお知らせの広告を、その企業が、新聞の下の方に出すことは、よくあると思うのだけれども
沖縄では、
これを、一般の市民が亡くなった時に出す。
遺族の連名で、訃報の広告を打つのである。
それが、毎日、丸々1ページ。
全国紙みたいに、紙面の下の方にソッと載せるのではなく
沖縄の新聞は
丸1ページ使って、何十人分もの訃報広告を、ドンッと載せる。
そして
かつて私は、そのページで
亡くなられたオバァの名前に
<◎◎カマドメガ>
という名をみつけて、心底驚いたものだった。
その顛末は、過去の<沖縄の話>を読んでいただくとして
以来
沖縄へ行くたびに、気になって、ついついつい目を通してしまうのが
その訃報広告のページなのである。



さて
<カマドメガ>さん以来、そこまでビックリするお名前に出会うことは、まだ無いのだけれども
以前から、
訃報広告を見ていて、ちょっと気になっていたことは、あったのだ。
それは
亡くなられた方の名前の下に、しばしば、こういう物が書かれていること。

◎山◎◎太郎  <屋号 ◎◎◎◎◎>


屋号???
歌舞伎役者や落語家でもないのに?????


とはいえ、
これは、他府県にも無いわけではない。

武士以外は、名字を持つことが許されていなかった時代
個人を区別するために
日本全土で、庶民は、この<屋号>を名字の代わりに付けていたそうだし
国民皆姓となった今でも、
地方へ行くと
同じ名字の家が多い町では、
名字で呼ぶとややこしいので、祖先の屋号で人を呼んでいたりする。
で、
ここ沖縄も、
同じ名字が、大〜〜〜変に多い土地柄なので
そういうことかな
と、私は考えていた。

実際、その屋号を見ていると
例えば
大城さんという方だと

<屋号 四男新大城小>

などと書かれてある。
これなら、よくわかる。
大城家の四男が、独立して新しい家を持った、その家の屋号が<四男新大城小>。

ちなみに<小>とは、<グワー>と読む。本当ですよ。
何かと言えば、
これは接尾美称のひとつで
標準語に訳すと<〜〜ちゃん>にあたるもの。
沖縄では、中年以上の人は、やったらめったら何にでもこれを付けて呼ぶ傾向があって

「ほれ、ビール小(ビールグワー)飲みなさい」

とか

「エビフライ小(エビフライグワー)作ろうね」

などと言う。

なんで、ビールやエビフライに<ちゃん>を付けて呼ばねばならないのか???
と思うけれども
関西圏では(特に京都の人は)
芋や豆を

「お芋さん」「お豆さん」

と、ごく普通に呼ぶから、それを思えば特別妙でもないのかな。
「お芋さん」「お豆さん」、東日本の人には、かなり「???」だそうだけれども。

それはともかく、そういうわけで
<四男新大城小>は、<四男新大城ちゃん>。

他にも、
<真栄城(まえしろ)>さんという名字の方は、<トンゴ山小>なんて屋号を持ってらしたっけなぁ。
きっと、
住んでいる場所の近くに、<トンゴ山>と呼ばれる小さな丘があったんでしょう。



そんな屋号。

ただ、沖縄という、かなり個性的な文化を持つ土地だけに
もしかしたら、
他府県の屋号とは、また違ったものなのかもしれない。
違った発祥の仕方をしているかもしれない・・・
てなことも、一応、私は考えた。
考えたのだけれども・・・・・
あの<カマドメガ>の意味を探るほどには、熱烈に、その歴史を知りたいとは思わなかった。
なにしろ
他府県にもあるものだし。
それが・・・・・・・・



状況が変わったのは、昨年末だ。
那覇のホテルで、例によって<沖縄タイムス>を眺めていた私の目に
こんな、飛び上がるような文字が、飛び込んで来た。

<屋号 新頭拝見パープンヤー>

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
この人が住んでいたのは、どこの国だ???
<ガリバー旅行記>に出てくる馬の国か?????



意味以前に、<新頭拝見>を、どう読めばいいのかさえわからない。
なんなのよこれは???

で、
もう、こういう物を見てしまった以上、黙ってはいられない(?)
知りたい!!
と、モーーーレツに思ってしまった。
どういう意味なの<新頭拝見パープンヤー>。
そして、屋号って、沖縄ではいったい何なの???本当のところは、何?????



というわけで
またしても、沖縄県立博物館へ、おたずねのメールを出したワタクシ。(迷惑な)
でも・・・・・
出してから、かれこれ1ヶ月半。
いまだ、返事はいただけないまま。

・・・<新頭拝見パープンヤー>という屋号を、博物館の方も知らないのか。
それとも、メールは無視されたのか。
・・・前者であることを祈るけれども・・・
でも、民間のサービス業の会社じゃないからねぇ・・・・・。


ともあれ
冷静になった、今、思うのは
案外、自分の住む地元でも
調べてみれば、こういう椅子から転げ落ちそうになるほど衝撃的な屋号って
あるのかもしれないな〜
ということ。
ひとつ、調べてみようかしら。


<屋号 その2> 2005年4月30日 

メールではらちが明かないと悟り、沖縄県立博物館へ手紙を差し上げたワタクシ。
もちろん、返信用切手も同封して。
そうしましたらば、返って来ました。お返事が。
お忙しい中、ありがとうございます!沖縄県立博物館の学芸員さん!


で、
問題の<新頭拝見パープンヤー>なのだけれども
これは、あっさり

「わかりません」

とのお答えだった。

何故かと言うに、<屋号>というのは、
やはり他府県の屋号と同じで、集落内や親戚内で、個人を識別するためのもの。
よって、
その集落の人々、あるいは親戚達が<これは誰のこと>というのがわかればOKなわけで
よその人間には、全く意味不明な屋号というのが
沖縄にはいっぱいあるんだとか。

「<新頭拝見パープンヤー>も、まさにそれです。」

と、学芸員さん。
・・・いや、残念でした。

その代わりと言ってはなんだけれども
学芸員さんは、興味深いことを教えて下さった。

沖縄で、屋号が普及(?)した理由のひとつは、他府県と同じで
<地域内に、同じ名字の人が、やたらめったら多いから>
なのだけれども
もうひとつ
男子に<名乗頭>(多分、なのりがしらと読むんだと思う)の風習があるからだとか。
<名乗頭>
とは、またまた聞き慣れない言葉だけれども、これが何かと言えば
<男子の名前の、最初の一字>のことなんだそうだ。
で、
沖縄では、同じ血族の男子には、名前の最初の一字に同じ漢字を使う風習があるそうで
(例: 昌彦・昌夫・昌幸)
でも、これをやると
ただでさえ同じ名字が多い中
血族中に、同姓同名の男が続出してしまう
ってなことになるらしい。
そこで<屋号>が、絶対に必要!となったのだとか。


そんな、沖縄の<屋号>。
<名乗頭>自体は、現在では、アバウトな風習になっているらしいけれども
<屋号>の方は、バリバリに健在で
あのゴルファーの宮里藍さんも、ちゃんと自分の<屋号>をお持ちだそうです。
他府県でも、
生まれた子供に<屋号>を付けてる地域って、今でもあるのかな?


<クバ笠> 2005年4月30日 

おしゃれには、いよいよ縁遠い私だけれども、どういうわけか帽子は好き。
夏も冬も
ほぼ一年中、帽子をかぶって外を歩いている。
もちろん、
目的は<おしゃれのため>ではなく、<紫外線の防止>というオバさんなものだけれども
こう毎日毎日かぶっていると
なんというか、顔の一部というか、頭の一部というか、そういうものになってきて
ちょうど、眼鏡をかけ続けている人にとって、眼鏡が顔の一部となっているように
<しっくりくる>
ようになってきた、と思う。
要するに

「私って帽子が似合うわぁ」

と思えるわけですね。自分としては。いや、あくまでも自分としては!ですよ。





さて
以前から、私達夫婦には

「沖縄へ行ったら、是非買って帰りたい」

と思っている物があった。↓これである。





何かと言えば<クバ笠>と言い、農作業や漁をする時にかぶる日よけの帽子。
もちろん、
似たような物は、全国津々浦々にあって
あの<笠地蔵>のお地蔵さんも、たしか、こういう笠をかぶっていらっしゃった。
                                (↑って、実物を見たような書き方ですな)
ただ、他府県で見るそれは、たいていが竹製だ。
でも、沖縄のこれは
<クバ笠>という名でもおわかりのように、<クバ>という熱帯性の植物の葉で出来ている。
それが大変に涼しそうで
沖縄で見かけるたびに、山仕事・畑仕事用に欲しいなぁと思っていたわけなのだ。
だから
昨冬、沖縄へ行った際
ドライブ途中の地元スーパーの棚に、麦わら帽子に混じって、これを見かけた時、
迷わず、我々は棚へ走り寄り
手に取った。
手に取って、かぶってみて
そして買った。
夫だけが・・・。


そう、↑の写真は、その時買った、夫のクバ笠である。
私は買わなかった。
あんなに欲しがっていたのに、何故?????


何故かと言えば、それは、<あまりにもこれが似合いすぎたから>。


そう、
サイズを確かめるべく、クバ笠をかぶり、
スーパーの冷蔵庫のガラス戸に、おのれの姿を映してみた瞬間

映画やTVニュースで見る、タイやベトナムの農村の女の人ってこういう感じじゃあ・・・?

と思った。
いやもう
100年前からクバ笠をかぶっているかのような、馴染みきった姿。全く何の違和感も無し!!
もしかしたら、笠地蔵のお地蔵さんより、私の方がこの手のかぶり物、似合うかも!??


・・・・・しかし
大体、こういうものは、
本物の農家でも、海人(うみんちゅ:沖縄の言葉で漁師のこと)でもない人間がかぶる時には
<しゃれ>
でかぶるものなのである。と私は思っている。
その<似合わない>っぷりを見て楽しむのがメインと言うか。
実際、
夫は、その理念に応えるかのように
実に<取って付けたような>クバ笠姿を、披露してくれたのだ。
ホント、まるっきり板に付いていなかった。
そのままコントに出られるような、クバ笠姿だった。
夫本人も、私も
その姿に、思いっきり笑った。
だから、満足して、夫はクバ笠を買って帰ったのだ。
しかし、私は・・・・・

これじゃ、まるっきり本物じゃん!

というくらい似合ってしまっていたのだ。
そりゃ、似合ってもいいけど、
本当の農家じゃない以上、これじゃ<しゃれ>にならないじゃないの!!
いや、それとも
こんなに似合うんだから、これをかぶって山仕事や畑仕事に精を出すように
と神サマが言っているのかしらん・・・。



それはともかく、ここまでクバ笠が似合ってしまう理由は

<髪を染めておらず、パーマもかけていない上、化粧っけ無し>
<服装が、思いっきりカジュアル>
<顔が、思いっっきり東洋人>

という点にあるのだと思うけれども(だって、化粧したジュリア・ロバーツには絶対に似合わないもん)
でも、
もしかして
冒頭に書いたように

<帽子をかぶり慣れているから>

ってのも、でかいのかも??
とも思う、今日この頃。
眼鏡をかけてる人が、サングラス姿が様になるように、だから私もクバ笠が・・・・・。

ともあれ
スギ花粉のシーズンも終わり、ヒノキ花粉の飛散も、そろそろ終わりかけている香川県。
夫の<クバ笠>デビューも、もうすぐです。





<補足>

ところで、先日、畑にまく石灰を買いにホームセンターへ行ったところ
麦わら帽子の棚に、このクバ笠ソックリなものを発見した私。
多分、
中国製かマレーシア製か、どこかの外国製だと思うのだけれども
何かの植物の葉のようなもので編まれた、その笠、
・・・私の見間違いでなければ
商品名に<バッチェロ>もしくは<パッチェロ>と書かれてあったのだけれども・・・・・

なんなの??<バッチェロ>って?????



     
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