「お肉屋さんと八百屋さんに行って、ちゃーんとこの紙を見せるのよ」

エプロンをした女性が小さい方の子供に紙片を渡し、すこし大きい男の子にバックとお財布を渡した。

「はーい」「はーい」

「車に気を付けてね。それと、お菓子とかジュースとかは買っちゃだめよ」

「「はーい。いってきまぁす」」



おつかい

ssrider




二人の幼い子供たちが商店街を歩いている。

子供たちの母親譲りの柔らかい蜂蜜色をした髪の毛が歩調に合わせてふさふさ揺れる。


二人の男の子はこじんまりとした食肉店の入り口にやってきた。

入る直前、小さい方の男の子が、すこし背の高い男の子に尋ねる。


「おにいちゃん、おにくやさん、ここ?」

おにいちゃんと言われた男の子がぶっきらぼうに弟に答える。

「おかあさん、いつもここで買うじゃないか。早くおみせのおばちゃんにあの紙を見せろよ」

「うん。わかった。…(息を吸い込み、大きな声で)…こんにちは。おにく、ください」


食肉店の内儀さんが二人に笑顔を見せて答える。

「いらっしゃい。今日は二人だけでお使いかい」

「「うん」」

「おおっ、坊やたち、元気がいいなぁ。お母さんのお使いたぁ偉いぞ」

ばかでかい包丁を持っている親父が、太い声でほめながら、隣に立っている妻に目で合図した。

親父の妻は手を拭きながら、肉を並べているケースの向こうから出てきて小さい男の子の前にしゃがみこむ。

「おばちゃん、これください」

男の子は紙を内儀さんに手渡した。


内儀さんは紙に目を走らせて、夫に注文を伝える。

「あんた、合い挽き200と、から揚げ用のかしわを400だってよ」

「おうよ。坊や、ちょっと待っててな」

「うん」


内儀さんが少し心配そうに子供たちに聞く。

「お母さん、病気なんかじゃないんだろうねぇ?」

「ううん、元気だよ」

「そう、だったらいいけどね。でも、偉いねぇ。あ、そうだ」

と言いながら、店の奥からチョコレートを持ってきて子供たちに差し出した。

そして、彼女は「ほら、遠慮しないでお取り」と言った。

小さい男の子は受け取るかどうか少し迷ったが、お兄ちゃんがうなずいたのをみて黙って手をのぱした。

お兄ちゃんは「ありがとうって言ってもらえよ」と弟に注意し、お礼を述べてチョコをもらった。

小さい男の子は既にチョコを口に入れていたため、口をモゴモゴさせながら照れくさそうに

「おはちゃん、ありがほう」

とお礼を言う。

内儀さんは子供達のお礼に目を細めながら、おにいちゃんを褒める。

「そうだよ。挨拶は大事だよ。さすがお兄ちゃんだねぇ」


内儀さんは小さい男の子の柔らかい髪を撫ぜながら笑顔をお兄ちゃんに返す。

そして小さい男の子に目を向けて、独り言のように言葉を継いだ。



「あんたたちのお父さんとお母さん、いつも仲良いねぇ」

小さい男の子が得意気に返答する。

「うん。あのね、おとうさんとおかあさんね、ほんとになかがいいんだよ。
 いつもいつも『ちゅう』とか『しゅきしゅき』をしてるよ。ね、お兄ちゃん」

「うん。だって、おとうさん、こどもだから」

お兄ちゃんがまじめな声で答える。

内儀さんがおかしそうに微笑みながら尋ねた。

「子供って、そうお母さんが言ったのかい?」

「うん、おかあさん言っていたもん。おとうさんは『さーどちるどれん』だから、
 アンタ達の弟みたいなものだって。だから、しゅきしゅきするんだって」

小さい男の子が続けて言った。

「でもねでもね、おかあさんね、僕達にはほっぺに『ちゅっ』だけど、
 あのね、おとうさんにはずーっとおくちに『ちゅう』してるんだよ」

内儀さん、たまらず笑い始める。

お兄ちゃんが続いて言った。

「うん、どうしてかな?おかあさんに『どうしてって』聞いたら、おとなになればわかるって言ってた。
 おばちゃん、そうなの?」

笑いながら内儀さんが答えた。

「ふふっ、なんか……ふふふっ……おばちゃん……ははは……よく、わからないけど……
 あははははははははっ……仲がいいことは良いことだねぇ。ははははは……あ〜苦し……はははっ」

「うん、おかあさんたち、なかよしだよ」


楽しげに笑う内儀さんを見て、うれしそうにお兄ちゃんが言った。

どうやらこの内儀さんに『受けた』と思ったようである。 



内儀さんは笑いながら夫が経木に包んだ肉をお兄ちゃんのバックに入れ、勘定を終えた。

「はい、サービスしといたからね。今日のおつかいは八百屋さんもだろう?」

「うん」

「車に気をつけて帰るんだよ。わかったね」

「「うん、おばちゃんありがとう。さよなら〜」」

子供達は手をつないで店を出ていった。




翌日、子供達のお母さんは商店街に買い物に行った。

まずは魚屋に入る。

「らっしゅい、あ、碇さんの奥さん」

「こんにちは、この太刀魚の切り身を下さい」

「ふふっ……あいよ」

魚屋の内儀さんが笑いをこらえながら魚を袋に入れ、お釣りとともに渡した。

「毎度ありがとうございます。……ふふっ」

明らかに笑いを堪えている顔つきである。しかし、いやな感じはしない。


店を出てからお母さんは思った。

『なんかアタシ可笑しいかしら。なんか笑われている感じがするのよね』

首をひねりながら、次の店に入った。



次の店では女主人が対応した。

「こんにちは。ふふっ、いつも仲がいいことでよろしいわね」

「は?」

「御主人とラブラブでいいなぁってことですよ」

「はぁ」

女主人の言葉に、お母さんは少し戸惑いながら答えた。





彼女は知らない。

今日の商店街の話題の主を。

笑顔で迎えられる理由を。











おしまい

戻 る