LAI−LA

第3話

 

 

3週間後…

「しかし、センセはいいのう」

トウジの大きな声が病室に響く。

「わしのときはこんなええもん誰も持って来んかったわ」

そういいながら見舞いの品をパクパク食べている。

トウジもあの事故で足を失い、長期入院していたが既にリハビリも終え、シンジと同じクラスにいた。

シンジとトウジとケンスケは今でも仲のいい友達である。

「トウジ君、恥ずかしいからやめて」

洞木ヒカリがたしなめる。

「なんや、イインチョ、食べたいんか?遠慮せずもろたらいいんや」

何もわかっていないトウジ。更に言う。

「入院したとたん、学校中の女が見舞いに来るとはセンセも隅に置けんのう。
 まぁ、見舞いの菓子はわしが全部もろうたるさかいに心配はいらん。
 みんな、なかなか良うできとるやないか」

「トウジ!」

ヒカリが言う。

「わかっとる。この見舞いのものも結構いけるけど、わしはヒカリのが一番やがな」

食べながらサラリと言うトウジ。自分の気持ちをストレートに言っているだけである。

だからこそ自分の感情表現に気付いていない。

『ぽっ……』

ヒカリは真っ赤になってしまった。怒ることも忘れたようだ。

「でも良かったよな」

ケンスケが話題を変える。

「頭も全く問題がなくて、鎖骨だけとはな」

「うん、運が良かったよ」

「それにお見舞いもいっぱいもらって…お前がうらやましいぜ」

「無敵のシンジ様はかわいい女の子に囲まれてよかったわねっ」

「アスカ、そんな言い方って…(汗)」

ヒカリがなだめる。

「だって、あたしたちが毎日見舞いに来る時は普通の顔をしているくせに、
 他の女がたまに来た時は鼻の下をでれでれと伸ばしちゃって…。どういう了見かしら。まったく」

「了見って…。誰も鼻の下なんか伸ばしちゃいないよ」

「ふんっ。どーだか。愛想にしてはあやしいわねっ。レイもそう思うわよね?」

「ほかの娘が来た時、……碇君の笑顔、いつもより多い気がする」

「レイ…ひどいよ」

病室に彼らの笑い声が響いた。

 

「シンジさん、検温ですよ」

その時、看護婦のユキが体温計をもち、シンジのベッドに来る。


「きたわね」

アスカがまた不機嫌な顔に戻り、一言言う。

ぼーっとユキを見ていたトウジが「べっぴんさんやなぁ。」とつぶやいた。

ヒカリはそんなトウジの手を秘かにつねる。

「痛いやないか。何するんや」と怒るトウジ。ヒカリは知らんぷりだ。

レイはユキをじっと見ている。

レイの紅い目がすこし怖い感じがするのは気のせいだろうか。

ケンスケは、カバンからすかさずカメラを出して写している。

「いつもお友達がいて、にぎやかね。今日は変わりない?」

「ありません。36.4度です」

「そう。じゃあ、脈を取るわね。……私の時はいつも脈が多いのよねぇ」

「そうですか?」

「そうよ。ふふっ、ねぇ、もしかして、私、シンジ君から見て魅力的だから?」

シンジの手を取りながら、上目遣いでシンジを見るユキ。

シンジは真っ赤になっている。

我慢できなくなったアスカが口火を開く。

「アンタ何言っているのよ。それが患者に対する態度ぉ? 
 だいいち、そんな事じゃまともに脈なんてとれないじゃない」

「いいのよ。脈なんてあとからたっぷり二人っきりでとれるわよ。ね、シンジ君」

「なっ、何言っているのよ。アンタはっ」

「ふふっ。妬いているのね。アスカちゃん」

「なぜ私の名前を?って、そんなことはどーでもいいっ。焼き餅なんて焼いてないわよっ。
 アタシはアンタのそのおちゃらけた態度が気に食わないって言っているの。
 婦長に言いつけるわよっ」

「どーぞ。私は患者とのコミュニケーションをとっているだけですから。ねぇ、シンジ君」

シンジに話を振るユキ。

「え?え〜っとそうかな」

「私とのお話し、いや?」

ユキは目をウルウルさせてシンジを見つめる。

アスカがさらにヒートアップする。

「このっ、バカシンジっ! アンタがちゃんと言わないから、こいつがつけあがるのよっ」

「アスカ、それはひどいよ。ユキさんたちは看護婦だよ。お世話をしてもらっているのにそういう言い方はないよ」

ヒカリが間に入る。

「アスカ。碇君の言うとおりよ。でも、看護婦さんもあまりアスカをからかわないでください」

さすがは委員長。ヒカリが的確に仲裁して、事態の終息を図った。

「ふふっ、ごめんね。でも、シンジ君と話しているとよくアスカちゃんの話になるのよ。
だから、ちょっとからかいたくなっちゃって」

「………解ればいいのよ」

ふくれっ面をそむけたまま、答えるアスカ。

アスカはシンジから自分の話題が出ていると聞き、気になっていた。

しかし、素直に話題の内容を尋ねるアスカではない。

プンスカモードを装いながら、短く答えるのがやっとだった。

脈拍をとり終わったユキはシンジに言う。

「明日は祝日ですけど、清拭じゃなく、お風呂に入りましょうか?先生から許可が出ましたから」

「いいんですか?ぼく、お風呂に入りたかったんです。うれしいなぁ。ぜひお願いします」

無邪気に喜ぶシンジ。

「よかったわね。ふふっ、明日はシンジさんのお世話を希望する看護婦が多いかもね」

また、余計な事を言って、ユキは笑いながら出て行った。

 

「シンジ、今の何?」

アスカがシンジをにらむ。

「明日、お風呂に入るのだけど…」

シンジが『聞いてなかったの?』 という顔で答える。

「バカ、そのくらいアタシもわかるわよ。アタシはアンタの世話を希望する看護婦が……  
 アタシはアンタの世話を希望する看護婦が……じゃなくって、『せいしき』って、何なのよって聞いているの?」

『アスカ、もっと素直になりなさいよ』 ヒカリが少しため息をつく。

当然、鈍ちんキングは気がつかない。

「蒸しタオルで体を拭いてもらっていることだけど」

シンジが答える。

「お前、そんないいことをしてもらっているのか?あんな美人に。う〜ん、俺も入院しようかなぁ」と真剣に考えるケンスケ。

「背中とか右手が使えないところだけだよ。他は全部自分でするよ。変な想像するなよ」

あわててシンジが言う。

「ふ〜ん、そして、シンジ様は明日、美しい看護婦さんとお風呂に一緒におはいりになる訳ね」

「アスカまで変なことを言わないでよ」

「どーだか。やけに看護婦さんと仲がよろしいようで。
まさか、アタシのいないところで悪口を言っているのじゃないでしょうね。さっきもそんな話が出たし…」

「ちがうよ。ただ、学校の様子とか話しているだけだよ」

シンジが困った顔でアスカに言った。

 

そのとき、突然レイが口を開いた。

「碇君、わたしが明日お風呂に一緒に入ってあげる」

突拍子もないレイの発言にアスカが呆れて言う。

「アンタ、バカぁ?温泉の混浴風呂とはわけが違うのよ?」

「そのくらいわかるわ。背中とか流してあげるだけ。わたし、何かおかしいことを言った?」

まじめな顔でレイが言う。

その話を聞いていたヒカリはいつもの『不潔よ』モードに入ることなく、レイの話しにうなずいた。

「綾波さんの言うのもわかるわ。知らない人よりいいかもね。トウジもそうだったし…」

「ヒカリ…一緒に入ったの?」アスカをはじめみんながヒカリを見る。

「な、なにいっているのよ。アスカ。」あわてて否定するヒカリ。

トウジもあわてて言い訳を言う。

「そ、そうや、妹にしてもろうたんや。海パンはいて背中を流してもろうたで。
シンジ、綾波がいいと言ってるなら、してもらえ」

話をシンジに振るトウジ。 あせった態度が思いっきりあやしい。

「しかし、それはまずいのじゃないのか。シンジの理性が持つかなぁ…」

ケンスケがいう。

「ケンスケ、ひどいよ。ぼくにはそんな気持ちは無いよ」

シンジがあわてて言い返す。

『『ナイス、ケンスケ』』

トウジとヒカリがホッとした顔をしたのはご愛嬌である。

シンジにケンスケは無情にも言い放った。

「いや、わからないな。中学のとき、綾波の水着姿を見てたじゃないか。あの時,確かにシンジは見とれていたよなぁ」

「なに言いだすんだよっ。あの時は違うよっ」

とシンジ、かなりあせる。

珍しく黙って聞いていたアスカが言った。

「わかった。アタシがするわ。シンジが襲って来てもアタシなら簡単に撃退できるし。
 それにいつもシンジには世話になってるしね。シンジ、水着のある場所を教えなさい」

「アスカ、いいよ。看護婦さんにしてもらうよ」

シンジは困った顔だ。

「ダメ、すでに決まった事なのよ。それともこのアタシの好意が受けられないっていうんじゃないでしょうね」

アスカが腰に左手をあて、右手でシンジを指さしピシッと言う。

『いつ決まったんだよ』

みんなが思う。

「いや、そういうわけじゃないけど、………綾波、いいかな?」

とシンジ。

「……わたしはかまわないわ」

そういったが、レイは怒っているように見えた。

「綾波…ごめん」

シンジは自分の所為ではないのにレイに謝る。やはり苦労人である。

「シンジ、看護婦さんにちゃんと断っておくのよ」

「わかったよ」

「何。その言い方?感謝のコトバがひとつも入っていないじゃない」

『自分から言い出しておいて、感謝のコトバって…』

シンジ、心のため息である。

「よろしくお願いします。アスカ様」

「よろしい。じゃあ、あしたね」

アスカたちはシンジの病室をあとにした。

   

 

2003.3.8 ほんの少し改訂

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