たらちめ


第四話

Written by ssrider



「シンジ、部屋は片づいたのか?」
朝、シンジが大学に行くところに出会ったクリーシィが気の毒そうに聞く。
「いえ、全然」

シンジの顔色が心なしか青く見える。
なにしろ、自分の書斎までキョウコの遺品で占領されているのだ。
シーザーも落ち着きをなくしているらしい。

「聞けば、アスカのお母さんの遺品というじゃないか」
「ええ、そうなんです」
「それでは仕方がないな。アスカの大切な品だからな。
 でも、あの車には興奮したよ。セカンドインパクト前に発表された時、俺はものすごく欲しかったからな。
 それにトップレス・シースルーの彼女は今や車雑誌のグラビアでしかお目にかかれないしなぁ。
 しかし、シンジ」
クリーシィは声をひそめる。
「ここだけの話、アスカの血は母親似だな。
 彼女がここに来た時の荷物の量も驚いたが、あの遺品の量も物凄いぞ。女ってものはよく分からん生き物だな」
「……クリーシィさん、行ってきます」
「ああ、気をつけてな、シンジ」
シンジを見送ったクリーシィは首を振り、そして、生け垣を剪定しはじめた。







アスカは今日もご機嫌であった。
仕事についてはリツコに事情を話して休暇中らしい。MITのほうも了解をもらっている。
そして、山のようにある遺品の整理をしていたのだ。その遺品の多くは服飾関係であった。
別便でキョウコのアクセサリーも届いたが、アスカは一晩中それを見続けていた。

やはり、キョウコも相当なお洒落だったらしい。
服やバック、アクセサリーなど全て、上質でセンスのいい物であった。
アスカは、そのキョウコのコレクションの中から迷いながらも自分の気に入った物だけ残すことにして整理をすすめている。
そして、アスカはキョウコのコレクションを見ながら、母の面影をしのんでいた。



午前中整理をしていたアスカは、午後も遅い時間になって軽い昼食をとり終え、少しゆっくりしていた。
お茶を飲みながらシンジの書斎の荷物を思いだしていた。
『あの木の箱は何かしら。相当古い物に思えるのだけど…。今日の残りの時間はアレね』
そして、食器などを食器洗浄機に入れ、洗濯物を片づけた後、シンジの書斎へ向かった。


アスカはシンジの書斎に入り、箱を開けることができるスペースを確保すると、桐製の箱をそこに置いた。
そしてふたを開くと、和紙に包まれた物があった。
包みを開いてみると和服がでできた。

『ママの着物。いや、おばあさまのかも…』ひとつひとつ見るアスカ。
そのアスカの手がとまる。先日の撮影に着た着物と同じようなものであった。
『あれっ、これってマリアさんのものに似ているわ』そう思いつつ、また、他のものを見ていく。
別の同じ大きさの箱には帯や帯留、小物も入っていた。
『全部大切にするわ。ママ、ありがとう…………でも、似ている……気のせいよね。』

アスカはきちんとこれらの和服などを元に戻して、別の違う大きさの箱を開けた。
その中にはまた小さい箱がいくつもある。
『なに?ちょっと過剰包装ね。近代日本の悪い癖だわ。ドイツを見習って欲しいわね』
そう思いつつ、そのうちのひとつを開けたアスカは、中にはいっていたものを手にとってじっと見つめた。
そして、突然ぽろぽろと泣きはじめた。








シンジは早めに帰ってきた。片付けを手伝わないとアスカに怒られるからだ。
「ただいま。…アスカ?…いないの?」
部屋の中に入ったシンジは自分の部屋にアスカがいるのを見つけた。

「アスカっ、どうした!」

泣いているアスカを見て、シンジが駆け寄る。
アスカは黙って雛人形を差し出した。

「雛人形じゃないか。これがどうかしたの?」
「これ、マリアさんの雛人形と同じ。いえ、マリアさんはママだったの」

『?』シンジはアスカの言っていることが分からない。

「アスカ、大丈夫?疲れているんだよ。向こうでお茶でも飲もう」
優しくシンジがアスカに言う。
「シンジ、違うっ。アタシ疲れてなんかいないわ。聞いて!」アスカは話しはじめる。
「シンジとアタシのママがこの家に来てくれたんだわ。マリアさんはママにそっくりだったし、
 シンジのお母さんの顔は知らないけれど、ユリさん、シンジに似ていたもの。
 そして、ここにある雛人形も着物もあの日のものと同じなの。
 それにマリアさんもユリさんもすごく優しかったし、いろいろ教えてくれたもの。
 きっとそうだわ。そして、ママはこの形見をアタシに渡すために来てくれたのよ。
 シンジだってあの卵焼き、懐かしい味がするって言っていたじゃない。
 お義母様はシンジの好きなものをアタシに教えに来たんだわ。シンジはそう思わないの?」
アスカが真剣な表情でシンジに言った。
「まさか…」
シンジには信じられなかったが、エヴァでふしぎな体験をしているため、すぐには否定ができなかった。




翌日になった。

ここは日本。ネルフジャパンの調査広報部次長室である。

「シンジ君、俺も信じることはできないな」加持リョウジが電話に向かって話している。

加持リョウジはネルフ広報部次長である。
次長と言っても実質は部長と同じなのだが、複雑な経歴を考慮して次長待遇に落ち着いていた。
ネルフ調査広報部は、情報機関としてシンジ達のセキュリティも担当している。
シンジは担当責任者である加持リョウジに電話をしていた。

「取材者については、直接のコンタクトはしていないが、実在の人物かどうかをはじめ、  
 過去の執筆内容、思想、背後関係は最低でも確認しているはずだ。
 しかし、俺が直接確認しているわけではないから、再度チェックしてみる。
 少し時間をくれないか?…………………わかった。アスカとシーザーによろしくな」
リョウジはそう言ってシンジを安心させると電話を切り、たばこに火をつけた。
「雛祭りのゴーストか…夢のある話だ」



1時間後…ネルフジャパン 局長室にて

「碇、聞いたか」
「加持君から報告を受けた。あれはアスカ君の思い過ごしだ」
「ほぅ、そう思うか?」
「冬月先生、科学者らしくありませんな」
「しかし、エヴァに彼女の魂が残っておったんだぞ。
 人智を超えた事があっても不思議ではあるまい」
「………」
「ユイ君がシンジくんのところに来て、お前のところには来ない。
 ユイ君、お前のことを怒っているのかも知れぬ」
「何を馬鹿なことを」
「ふっ、今まで好きなことをしてきたからな、お前は。(ニヤリ)」
局長室に沈黙が流れる。
ゲンドウが重く口を開いた。
「………きょうは先に失礼する」
「ああ、わかった」

ゲンドウが去った後、独り残った局長室で冬月は渋茶を飲みながら思った。
『ユイ君、いつでも遊びに来ても…、いや、私がそっちに行く日が近いかな。……また会いたいものだ』








つづく