たらちめ第3話


たらちめ


第三話

Written by ssrider



その日の夜

「シンジ、どう?おいしいでしょう」アスカが得意気にシンジに言う。
「うん、すごくおいしいよ、アスカ。それに見た目がきれいだし。アスカが作ったとは思えないよ」

マリアとユリが帰った後、帰宅したシンジにアスカが今日作った料理を出したのだ。

「シンジ、それどういう意味?アタシが料理したって言ったでしょう。それとも作れないとでも考えているの?」
「でも、今まで、アスカ、和食はこんなにきれいに作っていなかったじゃないか?
 というか、白あえとか焼き魚とか、このような和食系統はぜんぜん……はっ」

シンジは、腕組みして仁王立ちするアスカを見て、触れてはならない魔界の門に手をかけたことを知った。
あわてて軌道を修正する。

「あは、あは、あはははは(汗)、しかし、料理の才能があると思うよ。今日は美人の大和撫子特集だったよね。
 それに『天才』の二文字も入れてもらえればよかったよね」ミエミエのヨイショを言うシンジ。
「シンジの言うとおりね。この美しき天才科学者には天は3物も4物も与えているのよね。
 シンジ、このアタシをフィアンセとしていることを幸福に思うことね」

アスカ、単純である。というかシンジのほめ言葉に弱いと言うべきか。

そして、「ユリさんからはこの卵焼きを習ったのよ」と卵焼きをシンジにすすめるアスカ。
シンジの箸がのびる。一口食べたシンジの表情が微妙に変わる。
「どうしたの?」アスカが気付く。
「この卵焼き、なぜか懐かしい味がする」更に食べるシンジ。
「そうなの?でも、確かに味はシンジの作る卵焼きに似ているわね」
「そうかもしれない…」
「これは、卵と赤ざらめと醤油と酒、それと塩ね、油はグレープシードを使って、鍋焼の土鍋で作ったのよ。
 土鍋でつくるなんて初めて知ったわ」アスカは続ける。
「そういえば、ユリさん、何となくシンジに似ていたわね。そうそう、最初は驚いたの」
「何があったの?」とシンジ。
「何もないけど、マリアさん、私のママにそっくりと思ったの。でも、少し話していたら、やっぱり違っていたわ。
 当たり前だけど。でも最初は心臓が止まるかと思っちゃった」
「キョウコさんに似ていたの?」
「そうなの。ほ〜んとビックリしたんだから。あっ、そうそう、ドイツに電話しないと。
 でもまだ、向こうは真夜中ね」
「何かあるの?」
「パパに聞きたいことがあって…たいしたことではないけど……」
と言って、アスカは寂しげに笑った。シンジはアスカの表情が気になったが、何も言わなかった。








翌日、シンジたちのリビングではアスカの元気な声が響いていた。
「パパ? アタシよ。アスカ。……うん、こっちは元気。シンジも。
 …………う〜ん、まだ行けないわ、仕事が忙しいから。
 …………わかったわ。今年中にはなんとか行くようにする。…………そのような心配いらないわよ。
 もう。二人とも忙しいんだから。……ありがとう。でね、今日はパパに聞きたいことがあって。
 …パパ?あのね、キョウコママのもの、何か残っていないの?…………………
 えっ、アタシ何ももらっていないわよ。………………
 ……………………そうなの?本当?………………
 …………うん、お願いね。すぐよ。楽しみにしているから。
 ………あっ、ママ………うん、だいじょうぶ。………シンジ?いるけど。…わかった」

「シンジ、ママがシンジと話したいですって」
「えっ、ぼく?」うなずきながら受話器を渡すアスカ。

「シンジです。……はい、元気にしています。……いえ、まだ学生ですから、……わかりました。
 アスカと相談して近い内に必ず伺いますから。………はぁ、スキーはやったことはありませんが…………
 ありがとうございます。ではお元気で。アスカに代ります」
「ママ、ヴァルターは元気?……そう。よろしくね。じゃあ、また電話するわ。
 ママも体に気をつけて。……ありがとう」
そういって、アスカは電話のオフボタンを押した。




「アスカ、何をお父さんに聞いたの?」シンジが聞く。
「シンジ、ママ、キョウコママの形見が残っていたのよ!パパが私に残していてくれたの。 
 こっちに送ってくれるって」喜ぶアスカ。
「それで電話したのか。よかったね。
 でも、そんな大事なことについて、お父さんはなぜいままでアスカに言わなかったのかな?」
と言ってしまって、すぐ、自分の不用意な質問を後悔するシンジ。

しかし、アスカは気に留めなかった。明るく答える。
「パパが、パパに万一のことがあった時も大丈夫なように、ママの形見を弁護士に信託していたの。
 私が20歳になったら連絡して渡すようにって。
 だから、パパも安心していたらしくて、すっかり忘れていたみたいなの。
 当時の弁護士はすでに引退して、別の弁護士が事務所を引き継いだから手違いがあったのではないかって。
 でも、しっかりした倉庫会社に保管しているし、すぐ、その法律事務所に連絡するって」
シンジはホッとしながら「楽しみだね」とアスカに言った。
アスカは「うん」と大きく返事をした。 





翌日、アスカはドイツの法律事務所と業務提携しているアメリカの弁護士の訪問を受けた。
そして、キョウコの遺品は、明日付けで航空便で空輸されること、通関手続きにしばらく時間がかかること、
危険負担等について説明を受けた。
その説明の後、弁護士は、アスカにドイツの法律事務所を契約不履行で訴追する意志があるかと尋ねた。
アスカの隣で聞いていたシンジはアスカが何を言いだすか少し心配したが、
アスカ本人は昨日から機嫌がよかったので、弁護士も満足な結果を得て帰っていった。







そして……10日ほどたったある日

シンジは、住んでいるフラットの管理主任であるクリーシィから電話を受けた。
「シンジ、アスカあての荷物が届いているのだが」
クリーシィは明らかに困惑していた。
「わかりました。アスカはちょっと近所に出ていますので、ぼくが取りに行きます」と答えるシンジ。
「いや、それはやめたほうがいい。でもすぐ下にきてもらいたいのだが」と言うクリーシィ。
その言葉に首を傾げながら、シンジはエントランスへ向かった。


エントランスから外に出たシンジは大型トレーラーに積まれた航空コンテナの列を見て絶句した。
もう一つのトレーラーには、真紅の360スパイダーが乗っていた。

先日訪れた弁護士がトレーラーの横に立っていたが、シンジを見て話しかけてきた。
「遅くなりました。惣流アスカラングレー様あてのお荷物とお車をお届けにあがりました。
 ドイツからの荷です。
 荷物の方はスタッフが部屋まで運びますので指示をお願いします。
 御確認の上、後ほどアスカ様のサインをもらいたいのですが。
 それと、宝飾品は別便になりますので」と弁護士はシンジに告げた。
「え、あ、はい……」

シンジは答えながら『この荷物の置き場所はあるだろうか』と頭の中で考えていた。 

そして、弁護士が合図するとバンからアルバイトらしい屈強な若者が数人出てきた。




つづく