たらちめ


第二話

Written by ssrider


マリアとユリはキッチンにいた。
雛祭りの取材に当たり、2人で写真にも撮ることとなる料理の献立を協議しているようだ。

「献立は、五目寿司と小蛤の清汁にして、それに水貝か貝のぬたと言いたいけど、
 材料の貝類は 手に入らないから、やっぱり、白あえね。
 それと打ち合わせのとおり鯛の焼き物。ユリ、材料はある? 雛あられと桜餅と白酒も用意してあったわよね?」
「全てあるわよ。それにせっかくだからあの卵寿司も作りなさいよ」
「そうねぇ、でも、いざってなると、あれもこれもと思ってしまって…。
 そうそう、卵と言えば、あの卵焼き、あの子好きだったでしょう?」
「…つくってみようかしら。久しぶりだけど。いい?」
「あの…」アスカが声をかける。
「アスカちゃん、ごめんね。料理の打ち合わせが全て終っていなかったのよ。
 なにしろ材料の手配がなかなかうまくいかなくて。アスカちゃんは雛祭りの料理の経験はある?」
いつのまにか『アスカちゃん』と言っているマリア。
「ないです…。雛祭りってあまり経験がないし」

アスカは寂しげに応える。
マリアの顔も少し曇る。
「そう……でも大丈夫よ。ここで覚えればいいわ。
 雛祭りは女の子のお祭りだから、かわいく、おいしくが大切ね。
 それに料理は仕事と同じ。段取りが肝心だわ。最初にご飯の準備をしましょう」




マリアはてきぱきと進めていく。

「五目寿司はね、前日の手に空いている時などに椎茸や酢はすとかを下ごしらえするの。
 今日はもう用意しているわ。そして当日に前日の椎茸の煮汁を使ってかんぴょうとか人参を煮るのよ。
 全部いっぺんにしようとするから大変と思うのよ。じゃあ、やってみましょうね」

アスカは真剣に料理をしている。
「豆腐は水から弱火で湯がくのよ。湯がきすぎはだめ。
 …そして火が通ったら布巾に取って板に挟んで、軽く重しを乗せ、水を絞るの」
マリアのアドバイスを受けながら、慣れない日本料理に取り組んでいた。




二人の様子を見ていたユリがアスカ達に声をかける。
「ごめんなさい。少し、アスカちゃんの写真を撮らせてもらえない?」
「ちょうど、今きりがいいから撮っていいわよ」マリアが答える。
ユリはアスカの写真を撮ろうとした。
アスカはカメラを意識する。
「う〜ん、ちょっと固いわね。自然な感じが欲しいんだけど」
「どうしても意識しますね。」アスカが苦笑しながら答えた。
「じゃあ、二人で料理を続けて。折りを見て写してみるから」
「そうね、その方がいいかもしれないわね」とマリアが答え、二人で料理を再開した。

しばらくして、ユリはカメラを構えた。
二人の料理している写真を数枚撮る。
アスカは最初のストロボ発光の時はすこし意識していたようであったが、
料理に集中していたこともあり、気にならなくなった。
その時、絶妙なタイミングで、マリアがカメラアングルから身を引く。
アスカの料理する姿をストロボの光が包み込んだ。 
「アスカちゃん、OKよ。マリア、ダンケ」
ユリが写真をとり終えて、アスカとマリアに声をかけた。
マリアは同僚に笑顔でうなずくと
「じゃあ、続けましょう」
とアスカにその笑顔を向けた。
アスカも二人に笑顔を返した。





アスカとマリアは料理を続ける。ユリは雛壇の組み立てをはじめたようだ。

「マリアさん、白あえの衣はこのくらいかしら」
「アスカちゃん、まだよ。擂りこ木が吸いつくぐらいにねばるまでよ。
 根気と丁寧。日本の女性の美徳よ。それに料理は繊細なもの。しっかりね」

「酢はこのくらいでいい?」
「いいわよ。じゃあ、酢飯に挑戦しましょうね」

「私は、鯛の塩焼きは強火で一気に焼いて、焼き上がったところに熱燗にした日本酒を少し振りかけるの。
 それでやってみる?」
「うん。やってみる」







「できたわ」
アスカがつぶやいた。マリアがアスカをほめる。
「アスカちゃん、がんばったわねぇ。大変よくできているわ。おいしそうよ」
「マリアさんのおかげよ。シンジが帰ってきたらびっくりするわね」
ユリが雛壇を作り終えてキッチンにくる。
「あっちのセッティングも終ったわ。おなかがすいたから食事にしましょう」
「そうね。いただきましょう。でも、ユリ、その前にあの玉子焼きを教えたら?」
「そうね。アスカちゃん、私流の玉子焼きを教えるわ。疲れていると思うけどだいじょうぶ?」
「だいじょうぶです。それにお料理は楽しいし」
「アスカちゃん、良いお嫁さんになれるわね。」
「そうですか?ユリさんから言われるとうれしい」
マリアはユリを見て、そして、アスカに笑ってうなずいた。






食事がおわって、三人はリビングでアールグレイを飲む。
「アスカちゃんはお茶を淹れるのも上手ねぇ。
 それにシーザーも全然いたずらをしないから雛人形も安心して置けるし、しつけがいいのね」とユリが言う。
「本当は、昔は何もできなかったけど、料理もお茶も全部シンジに教えてもらったの。
 一人で暮らすようになってから自分でも少しがんばったけど」アスカが正直に答える。

その時、雛壇を見ていたマリアがユリに言った。
「ユリ、天神様とお雛様は逆よ」
「まちがっていないわ。これでいいのよ。それに天神様?お内裏様じゃないの?」
「まちがっているとは言っていないわ。それはユリの雛人形の置き方で私のは違うのよ。
 ほら、デパートの展示でも作風別で二種類の置き方をしているでしょう?
 そして、この男雛は菅原道真なの。子供の頭がよくなるよう願いが入っているの」
「そう。知らなかったわ」ユリは立ち上がり置き換える。
「マリアさん。それ、マリアさんのですか?」アスカがマリアに聞いた。
「……そうなの。時間がないわ、アスカちゃん、着替えるわよ」
マリアはそう言い置いてキッチンに消えた。





「この着物すてきですね?」ユリから着物を着せてもらったアスカが言った。
「地味だけど、いいでしょう?マリアの祖母のものらしいわ」ユリが応える。
「そうですか。…マリアさんはいいですね。アタシ、そういうものがないから…。
 この間、シンジのお母さんの形見の指輪をシンジのお父さんからもらったけど、シンジの妹に渡したし…。
 指輪を渡したことを後悔したとかじゃないの、あれはレイ…シンジの妹だけど…レイが持っているのが本当。
 だからレイに受け取ってもらったの。
 ただ、私も私のママから何かもらいたかったなって…」
「アスカちゃんの家族はいないの?」ユリが聞く。
「ママはもういない…。パパは…別の人と一緒」アスカがうつむいてつぶやく。
「そう…、ごめんなさいね。プライベートなことに立ち入って。でも、お父さんに聞いてごらんなさい。
 シンジくんのお父さんみたいにアスカちゃんのお父さんが何か預かっているかもよ?」

 ユリがアスカの肩に手をかけ、うつむいているアスカに話しかける。

「アスカちゃんは立派よ。指輪のこともなかなかできないことだわ。アスカちゃんのお母さんがいたら誇りに思うわよ。
 それにシンジくんのお母さんもね」
そして、元気な声でアスカに言う。
「ほら、どうしたの?今日は美人の大和撫子の特集よ。被写体がそれでは撮影できないわ」
「そうですね。ユリさん、ありがとう」顔を上げて微笑むアスカ。
「準備できた?」きれいな和食器に盛り込んだ料理やお菓子をキッチンから運び込んだ
マリアが二人に声をかけ、アスカの着物姿を見て微笑んだ。





しばらくして、ひな人形を前にした撮影が終り、ユリとマリアは雛人形を片付けはじめる。
アスカは、和服から自分の服に着替え、和食器を洗いはじめた。
マリアは、雛人形の片付けを終えると、アスカと一緒に和食器を拭き、箱に仕舞った。
その時、アスカの心にしみるように話しだした。

「雛人形はね、『3月3日の節句が終ったらすぐ片付けないと嫁に行き遅れる』なんて言われていてね。
 私の父はそれで早く片付けるよう母にいつも言っていたわ。
 でも、母は『それより物を大切にする心が大切』と言っていてね、節句が雨の日だと絶対、その日に片付けないの。
 次の晴れた日に人形に風を通してから丁寧に片付ける人だった。
 アスカちゃん、父の願いもうれしかったし、母の教えもありがたかったわ」
「マリアさん。いい話ね」
「ありがとう。さて、終ったわ。ゲストにすっかりお世話になってしまったわね。ごめんなさい」
「いいえ、私もすごく楽しかったし、料理も勉強になりました。ありがとうございました」


二人でリビングに戻ってみると、ユリはガーデンパーティのときの写真を見ていた。

「それ、シンジが私にプロポーズしてくれた日の翌日に撮ったんです」
「そう、いい写真ね。」
「これは私たちの中学生からの友達が撮ってくれたの。シンジが大事にしているもの。
 シンジはここね。そして、この人がシンジのお父さん。似ていないでしょう。でも不器用な所はそっくりなの。
 この娘がさっき話したレイ、そして、こっちは…」
ユリに説明するアスカ。ユリもマリアもそんなアスカを優しく見つめていた。




つづく