たらちめ


第一話

Written by ssrider




アスカは、自分の情報端末にメールが入っていることに気がついた。




アスカは今、アメリカにいた。
今は、UN派遣研究員としてMITの研究に協力しているとともに
ネルフジャパンの主任研究員として在宅にて研究をしていた。
そして、同じフラットには、やはりMITで研究中の碇シンジが住んでいる。

いや、これは表現が的確ではない。
シンジと離ればなれに日本で暮らしていたアスカが耐えきれず、在宅研究の資格を勝ち取りシンジの家に来たのだ。
シンジとアスカは婚約中であり、バーニーズ・マウンテン・ドックのシーザーと一緒に穏やかに暮らしている。




「だれからかしら?」
アスカは端末の表示を見た。
端末にはネルフ日本を経由して、アメリカの日系雑誌社からのメールを伝えていた。



【件名 取材申し込みについて(要処理)
 別添のとおり取材申し込みがありました。
 特に問題はないと認められますが、受諾につきましては直接惣流様にて対応をお願いします。
                       ネルフジャパン 調査広報部

 〔添付ファイル〕
 前略 惣流アスカラングレー様
 弊社の季刊広報誌『さくら通信』にて、連載しています『大和撫子』のぺージに貴女の
 横顔を掲載したいと考えております。
 今回の内容はアメリカ在住の各界の美しい日系人女性の雛祭りを題材にする予定です。
 雛人形等はこちらで用意いたしますので、事前の準備は御心配いりません。
 日程等は御承諾あり次第、調整したいと考えています。御快諾いただければ幸いです。
 メールをお待ちしております。早々     さくら出版 マリア・シュレンベルク】





「ふ〜ん。取材ねぇ。」アスカはメールをプリントアウトする。
「『美しい日系人女性』ね。この私に目をつけるとはこの女性記者、なかなか敏腕記者のようね。
 まあ、今はけっこう時間に余裕もあるし、引き受けようかな。
 そうと決まれば、早速シンジとお買い物だわ。サロンも予約しないと。」

アスカ、『事前の準備は御心配いりません。』の文字は目に入らないらしい。

「何をするにもまず、日程確保ね。あれっ、電話番号を記載していない。
 まぁ、記者だからメールの方がこういう打ち合わせにはいいのかもねぇ。」
アスカはメールで承諾の回答を送った。


2時間後、返答が来た。
「もう返事が着いたのね。取材は『差し支えなければ御自宅でお願いします』か…、
 何これ、『料理をするところも撮影したい』ですって。これも『問題ない』っと。あっ、お義父様のセリフだわね。
 ふふっ、いけないいけない。ともあれ、シンジにシンク回りを掃除してもらわなきゃあね。
 そして、取材希望日は来週の水曜日。この日は……特に予定はないわね。でも、シンジはいないか。
 まぁいいわ。カメラマンも女性で対応するとあるし、問題はないわね。
 じゃあ、了解と…」
再度アスカはメールを送った。





その日の夜。食事後のゆったりした時間。アスカがシンジとお茶を飲んでいる。
「それでね、シンジ、『美しい女性』を取材したいんだって。」
「ふ〜ん、そうなんだ。」
「ちょっと、何、その言い方。フィアンセが『美しい』と言われているのよ。少しはうれしそうにしなさいよ。」

テーブルの横でシーザーは骨の形をしたガムをゆっくり噛んでいる。
まるで『恋人達の会話にはいちいちつきあっていられないよ』と言いたげな表情だ。

アスカは取材の事をシンジに話していたのだ。
シンジは落ち着いてティーカップを皿に戻すと、
「取材者の身許は確かなのかな。」と尋ねる。
「それはネルフがチェック済だわ。それに取材者は女性だし。」

シンジ達は今でも『チルドレン』の経歴を知った者から取材の申し込みを受けるなど煩わしいことが多い。
かつてのネルフの諜報部は機構改革により広報部と統合して情報収集と広報活動を担当している。
また、シンジ達のセキュリティも引き続き担当している。
とはいってもかつての裏の顔はほとんどなくなり、情報収集の分野でシンジ達をサポートしていた。

「なら大丈夫だね。」笑顔を見せるシンジ。
『シンジ、アタシのこと心配していたんだ。』と気付いたアスカであるが、うれしい気持ちと裏腹に口では別のことを言う。
「シンジ、さっきの罰よ。今度の日曜日は1日私につきあうのよ。」
「え〜っ、ぼく忙しいよ。アスカひとりではだめ?。」
「だめよ、選ばれし大和撫子をエスコートするのはシンジの義務なんだから、いいわね。」
「うん、わかったよ。なんとかする。」
「それとお客様だから掃除もね。特にキッチンよ。」
「うっ…掃除も?」
「そうよ、何か質問は?」
「ないけどアスカも掃除を手伝ってよ」
「当然じゃない。愛しい御主人様だけにはさせないわ。ねっ、シーザー」
シーザーはアスカの言葉に尻尾をゆっくりと振って応えた。







水曜日になった。当日は花曇りの日であった。


「こんにちは、さくら出版のマリア・シュレンベルクですが…。」
「あ、はい。」とアスカがシーザーと共に玄関を開けると、若い2人の女性が立っていた。
二人とも28才ぐらいから32才ぐらいだろうか。二人とも才気あふれる美人であった。
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アスカは来訪者の一人の顔を見て驚く。
『似ている。そっくりだわ。…まさかね。』

アスカの視線に気付いたマリアがにこやかにアスカに問いかける。
「あら、私の顔に何かついているかしら。」
「いえ、ごめんなさい。……日本語が大変お上手だったから。
 私が惣流・アスカ・ラングレーです。どうぞお入りください。」
「ありがとうございます。惣流さん。今日はお時間をいただき、感謝していますわ。
 こちらはカメラマンのユリ・ライアンです。私も彼女も日本生まれの日本人です。
 二人とも結婚してパートナーの姓を名乗っていますので。今日はよろしくお願いします。」

あいさつがすむと、マリアはユリと共にカートに乗せた大きな荷物を運び込んだ。
アスカはそれを見て搬入を手伝った。
リビングに入ったとき、ユリが話しかけた。

「ありがとう。惣流さんは素敵なお嬢さんねぇ。
 最近の娘さんはこのような力仕事は見ていても手伝いなんてしてくれないのよ。今日は楽しちゃったわ。」と親しげに話す。
「そんなたいしたことは…」アスカはなぜか緊張する。その緊張を振り払うように話す。
「あの、私のことは『アスカ』と呼んでください。そのほうが私も気が楽ですから。」 
「わかったわ、アスカさん、じゃあ、お互いファーストネームで呼びましょう。
 この犬はなんて名かしら?頭よさそうね。」
「シーザーといいます。」
「この犬種の由来からつけたのね。」
「わかりますか?お詳しいのですね。」すでにアスカとユリは意気投合したみたいである。

マリアが今日の取材の予定を説明する。
「アスカさん、今日は『雛祭り』が主題となります。
 それで、お料理するところと和服を着てもらって雛飾りの前で写真を撮りたいと思います。
 インタビューはその準備をしながら雑談形式で行いたいと考えています。
 大まかには以上ですが、時間はけっこうかかります。よろしいでしょうか。」
「わかりました。こちらこそよろしくお願いします。でも、和服は着付けがちょっと…。」
「だいじょうぶ。私たちが手伝います。着ていただく和服も用意しています。
 気に入ってくれるとうれしいけれど…。」
ユリが二人に声をかける。
「ちょっと、みんな話しかたが堅いわ。せっかく女だけなのだからざっくばらんに話しません?雛祭りは女の子の節句よ。」
「ユリのいうとおりね。アスカさんもいいかしら?」
「そうね、アタシもその方が楽だわ。あれっ?ざっくばらんしすぎかな?」
三人の魅力的な女性は楽しげに笑った。





つづく