主よ、人の望みの喜びを

 

     第八話 システムダウン





午後からネルフの研究部第1会議室では主任級の研究員が集まり、協議を行っていた。

伊吹マヤが説明を続けている。すでに日没時間は過ぎていた。

「今回のシステムダウンについては、原因については現在検証中です。
 現段階で考えられる原因としては、……」


現在開発中のMAGIμtypeにシステムダウンが発生したのだ。

開発は順調に進んでおり、問題は最近発生していなかった。

しかし、最終段階で発生した今回の事態を重く見た赤木リツコが主要スタッフを招集したのだ。

さっきまで赤木リツコは実機の内部に潜り原因の調査を行っていたが、今は会議室に戻り、黙って説明を聞いている。



アスカも参加していたが、時計を見ながら内心焦っていた。

きょうがシンジの出席しているカンファランスの最終日なのだ。

『もしかしたら今日帰ってくるかもしれない。』

そう思うと気もそぞろになって、会議に集中できなくなってしまうアスカであった。




伊吹マヤの説明が終わる。 

「惣流博士」

赤木リツコの声が冷たく響く。アスカがビクッと体を震わせる。

「集中力が欠けているように見受けられるけど。」と言った後、今回のトラブルの原因について意見を述べる。

「…が間接的に働き、今回の事態に結びついたと考えられます。
 現時点での私の意見としては以上ですが、さっき伊吹博士がいった通り現在検証中ですので、
 あくまで推測に近いものと思ってください。
 ただ、μtypeの今後の開発において、万一、同様な事態が発生すれば
 計画に深刻な影響を及ぼす恐れもあります。
 今回のようなトラブルの発生防止に特に留意して作業をすすめてください。
 では、検証結果については判明次第メールで配付します。
 また、本件における意見等についてもメールで願います。
 以上です。お疲れさまでした。」


解散するスタッフ。

「アスカ、ちょっといいかしら」

リツコが呼び止める。

他のスタッフが出て行ったことを確認し、「あなたらしくないわね。」と注意する。

「先輩、今日がシンジ君の最終日ですから」とマヤがかばう。

「理由がどうあろうとチームワークが欠ければ重大な事態を及ぼすことは、
 アスカが一番わかっているはずだけど、違う? みんな真剣なのよ。」

「リツ…、いえ、赤木部長、申し訳ありませんでした。」

「アスカ、このプロジェクトから外れてもらうわ。」

唇をかみしめるアスカ。

リツコの言うことがよく分かるだけに自分が情けなく、腹が立ってしょうがないのである。

「先輩」マヤも泣きそうな顔になっている。

「アスカ、今日はもう帰っていいわ。でもあなたの立場をよく考えてね。」

アスカは肩を落として会議室から出て言った。


リツコは眼鏡を外すと、「ふーっ」と息を抜き、マヤに言う。

「本当の理由は、アスカは明日から当分仕事はできないでしょう。だから外すの。
 また、必要なときは参加してもらうわ。
 アスカにはすぐ別の新規プロジェクトに取り組んでもらうつもり。
 でも、…アスカにわかってほしいの。いえ、アスカはわかっていると思うけど。
 これからのアスカのことを思えばこそ、ここで私が言うべきことを言わなければならないの。
 後はアスカが考えることね。
 マヤ、アスカには外した理由と新規プロジェクトのことは話してもいいけど、
 このことは言ったらだめよ。
 それとあなたもまだ甘いわ。副部長でしょう。」

「はい…」






第二東京市 ホテルの廊下



「シンジ、もう部屋で休むといい。明日、私は直接空港に行くので、ここで失礼する。」

「教授、ありがとうございました。」

カンファランスは終ったが、終了後開催された懇親会の席上で、

デヴリン教授は各国から来た科学者にシンジを紹介していた。

変わり者と言われる教授であるが、意外と人脈が多く、
シンジは名前を覚えるのに一苦労したのだった。

しかし、全ての行事が終了した。
 

部屋に戻ったシンジは時計を見る。

まだ、リニアには間に合う。シンジは急いで荷物を整理した。

先にチェックアウトしたことを教授に伝言するようフロントに頼み、シンジは駅へと向かう。


発車寸前のリニアに乗ったシンジは、列車の到着時間を確かめると、アスカの携帯に電話をする。

コールの後、応答の声が出る。留守番電話サービスであった。

電話を切って、「仕事なのかな。」とつぶやく。

『終るのが遅くなったら帰るのは明日になるかもしれないと連絡しているし…』



リニアが定刻どおりに音もなく新第三東京市駅のホームに滑り込む。

まばらな人に混じって改札口を出たシンジを待っていたのは、加持リョウジであった。






つづく

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