主よ、人の望みの喜びを

 

    第三話 恋人達の会話      




レイが帰ったあと、二人の間にわずかだが静寂が訪れた。

シンジがその静寂を破り、アスカに聞く。


「レイはいつにもましてハイじゃなかった?」

「それがね…レイは今、恋をしているのよ」

「えぇっ 誰と?」

「図書館で知り合った社会人だって。何でも学校の先生らしいけど。
 この間本人と会ったわ。
 レイとの買い物に出かけた時に街で偶然に本人に会ったから、3人でお茶を飲んだの。
 話してみた感じとしてはまぁ悪くないわねぇ」

「だいじょうぶかな」 心配げにシンジがつぶやく。

「だいじょうぶよ。
 それに、ほら、レイには、ネルフスタッフという小姑(こじゅうと)がわんさかいるんだから。
 たぶんミサトあたりがその先生を徹底的に洗い出しているわね」

「でも…」

「ストップ レイの人生はレイのものよ。レイが自分で選んだことなの。
 シンジが心配するのもわかるけど、それは大きなお世話というものよ。
 それにレイの人を見る目は確かよ」

「そうだね。やっぱりアスカってすごいや」

「当たり前じゃない。で、シンジ!私のことは何も聞いてくれないの?!」

「ごめん、実はさっきまでアスカのことを考えていたんだ」

「えっ」 アスカはシンジの逆襲に少しびっくりする。


「最近、電話もメールも少ないから忙しいのかなぁと思って。
 それとも僕のことはどうでもよくなったのかなぁ」

少し意地悪を言うシンジ。成長したものである。

「誰がシンジのことをどうでもいいって言ったのよっ。
 アタシもいつもいつもシンジのことを考えているのだから。
 そりゃ、いま抱えているプロジェクトが最終段階にはいって忙しいので連絡が少なくなっているのは謝るわ。
 でも、シンジも同じことよ」

「僕はいつも通りだよ」

「うそ。メールは変らないけど電話は少なくなっているわよ。
 アタシはメールよりもシンジの声を待っているんだからね。
 ちゃんと電話しないと承知しないわよ」


じつは、シンジも日々の研究生活が忙しく、気づいた時には電話をする時刻を逃していたことが多かった。

距離と時差は恋人たちにとって敵である。

シンジは部屋で電話を待っているアスカを想像し、少し自己嫌悪に陥った。


「うん、気をつけるよ。ごめん、アスカの気持ちを考えていなかった」

「わかればよろしい。で、シンジの方はどうなの」

アスカの明るい言葉にホッとするシンジ。

「研究はまぁ順調かな。教授は厳しいけどね。
 でも教授からいつもMAGIをかっぱらって来いと言われるのは困っちゃうけど」

「でもその気持ちはわかるわ。MAGIほどのマシンはいまも存在しないものね。
 で、研究のめどはいつごろになりそう?」

「うん。あまりかからないと思うけど…。でも、他にやってみたいことも出てきたから、
 やっぱり後2〜3年はかかると思うんだ」

「じゃあ 帰国はその後になるわね。アタシもミサトみたいになるわけね。
 あ〜あ、惣流 アスカ ラングレーもいかず後家が決定なのねぇ。
 どうしてシンジなんかを好きになったんだろうなぁ」

「そんなぁ、僕はアスカのことをちゃんと考えているよ…」

「どのように考えているのよ。アタシに話してみなさい。
 といってもシンジが話すわけがないか。
 いいわ。アタシにも考えがあるし…。
 まぁしっかり頑張るのよ。負け犬になるのはこの私が許さないわよ。
 いいわね、バカシンジ」

「うん」

そう言いかけて、シンジは、さっきの会話を思いだし、真っ赤になってしまった。

「なによ。黙っていないで何とか言いなさいよ」

あまり長い間黙っていたので心配になったのか、アスカの口調が変る。

「シンジ、どうかしたの」

「うん、あの……さっきレイがいった……セクシーな…下着って……僕のためだよね」

アスカも真っ赤になったらしい。



しばらく沈黙が続き…

「うん」

というささやくような小さな返事が受話器からこぼれた。


 

つづく

 

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