◆脳ヘルニア

脳ヘルニアとは
頭蓋内圧亢進の最終段階です。頭蓋内病変によって、脳組織が圧迫させると圧力が低い方に偏位します。一部の組織はさらに障壁を越えて、他のスペースに嵌入(入り込む)します。脳幹の圧迫症状が出現し瀕死の状態です。

【脳ヘルニアを理解するためのポイント】
1)頭蓋内の間仕切り頭蓋内の間仕切りを理解します
@頭蓋内腔はほぼ密閉された空間ですが、唯一大(後頭)孔を通して脊髄腔とつながっています。

A頭蓋内腔は小脳テントによってテント上とテント下に分けられています。テント上には前頭蓋窩、中頭蓋窩が含まれ、テント下は後頭蓋窩です。小脳テントは硬膜によって形成されていますが、その開口部はテント切痕と呼ばれています。また、左右の大脳半球は大脳鎌で境されています。 脳組織はこのように、頭蓋骨および硬膜によりそれぞれ分けられています。

2)起こる場所と飛び出していく部位で考えます
名称で混乱してしまいます。ヘルニアの起こる場所で生理する方法と飛び出していく部位で生理する2つの方法があります。例えば、大孔ヘルニアと小脳扁桃ヘルニアは同じものです。

3)症状は圧迫を受け障害される部位によります
症状は、飛び出してきて嵌入するものによって、圧迫を受け障害される部位の症状だと覚えるとよいです。ヘルニアの起こる部位に、何があるかを知ることが必要です。テント切痕を占めるのは中脳で、大孔には延髄があります。基本的には脳幹の圧迫と考えるとよいです。時には神経(脳神経)が圧迫を受け重要な脳神経症状を示すことがあります。

4)どのヘルニアもすぐに対策を講じなければ死亡の危険があります
頭蓋内は1階(小脳部分)が1部屋、2階(大脳部分)が2部屋に分かれています。考えるべき頭蓋外との関係は大孔と脊椎管のただ1点で1階と地下室の関係と理解しましょう。2階の床が小脳テントで2階の壁が大脳鎌です。1階の部屋を後頭蓋窩と呼びます。後頭蓋窩の入居者は小脳と間脳です。2階のそれぞれには左右の大脳が入っています。これらの仕切りがなかったら、頭蓋内は大きな1部屋となり、他との関係は大孔を境とした脊椎管のみであったはずです。当然ヘルニアは大孔ヘルニアの1種類だけだったでしょう。
つまり、脳ヘルニアとは、大孔、小脳テント、大脳鎌の3つの仕切りを越えて脳の一部が移動することです。丈夫な壁ですから、この3ヶ所以外に圧力の逃げ場がないのです。ヘルニアの起こる場所で整理すれば、大孔ヘルニア、テント切痕(小脳テントの内側縁をこう呼びます)ヘルニア、大脳鎌ヘルニアとなります。






テント切痕ヘルニア @外側ヘルニア(鉤回)
  A正中ヘルニア(脳幹)中心性
大孔ヘルニア B(小脳扁桃)
大脳鎌ヘルニア (帯状回)
蝶形骨縁ヘルニア (前頭葉下面)

【脳ヘルニアの分類】
名称 嵌入する組織 嵌入により影響を受ける組織 症状
@テント切痕ヘルニア
(鉤ヘルニア)
側頭葉内側
(鉤、海馬)
間脳(中脳) →言語障害
片麻痺
除脳硬直
    動眼神経(V) →動眼神経麻痺
(瞳孔不同)
    後大脳動脈 →同名性半盲
A上行性テント切痕ヘルニア 小脳前部 脳幹(中脳)
動眼神経
同上
B大孔ヘルニア
(小脳扁桃ヘルニア)
小脳扁桃 延髄、後下小脳動脈 延髄症状(呼吸障害)
項部硬直
C正中(中心性)ヘルニア 中脳 脳幹(中脳) 意識障害
除脳硬直
呼吸障害
縮瞳(進行すれば散瞳)
D蝶形骨縁ヘルニア 前頭葉後下部 側頭葉 特有症状なし
側頭葉前部 前頭葉および中大脳動脈 時に視交叉部症候
E大脳鎌ヘルニア
(帯状回ヘルニア)
帯状回
脳梁
前頭葉正中下面
帯状回
脳梁
前大脳動脈
特有症状なし



1)大孔(大後頭孔)ヘルニア
(小脳扁桃ヘルニア)


部位は、大孔です。嵌入するのは小脳扁桃です。圧迫されるのは、延髄です。脊椎管の圧力よりも、後頭蓋の圧力が高くなることによって起こります。一般に後頭蓋病変で起こりますが、テント上病変でも起こりえます。延髄には呼吸中枢があるほか、体幹と脳を連絡する全ての繊維が通過するわけですから、症状は予測できなくてはいけません。 症状は延髄の圧迫症状として、理解しておきます。

【特徴】
・後頭蓋窩は狭いです。そのため、緩衝作用が弱く症状の出現が急速です。後頭蓋窩病変は怖いです。

・呼吸中枢への影響が出やすいです。失調性呼吸・チェーンストークス呼吸や呼吸停止をきたします(CO2上昇でさらに頭蓋内圧上昇)。

・何を行っても、覚醒しない。重症の意識障害をきたします。

・水頭症も出現しやすいです。これによってさらに急速に頭蓋内圧亢進が進行します。

2)テント切痕ヘルニア
@鉤回ヘルニア
部位は小脳テントの内側面、テント切痕です。水平面の脳偏位によって、嵌入するのは側頭葉の鉤回と覚えましょう。テント上の圧力がテント下(後頭蓋窩)よりも高くなり、下方に圧迫が加わることが原因です。テント切痕部と中脳の間のスペース(迂回槽)に側頭葉の内側面(鉤回や海馬回)や間脳が嵌入し脳幹部、とくに中脳が下方・側方に圧迫されて症状が出現します。また、この部位を眼神経や後大脳動脈が通るので、動眼神経麻痺や後大脳動脈領域の脳梗塞が生じることがあります。後頭蓋窩の圧力が高い場合に、圧力の低いテント上に上行性テント切痕ヘルニアと呼び区別されます。

A中心性テント切痕ヘルニア
嵌入するのは中脳です。
原因は同じですが、比較的ゆっくりと垂直方向に偏位して生じる病態です。

【テント切痕ヘルニアの症状と特徴】
・意識障害:鉤回ヘルニアでは、とくに意識内容の障害に先立ち覚醒障害が出現します。中心性ヘルニアでは意識内容の変化が先立ちます。

・中脳の前方には錐体路が通る大脳脚があり、障害によって対側の麻痺が生じます。バビンスキー反射のような病的反射も認めるようになります。

・鉤回ヘルニアでは早い時期の同側の動眼神経麻痺が生じます。同側が大きい瞳孔不同と同側の対抗反射消失が現れたら、テント切痕ヘルニアを疑い意識障害の程度、バイタルサインに注意が必要です。この時期に治療を開始すれば間に合います!このサインを見逃さないことが大切です!

・進行し、中脳障害が高度になると除脳硬直位+両側瞳孔散大となります。脳幹損傷の完成で手遅れです。(でも、奇跡を信じて減圧を行うこともあります。)

・後大脳動脈の圧迫閉塞によってこの灌流領域の脳梗塞を生じ、頭蓋内圧がさらに亢進することがあります。

3)大脳鎌ヘルニア
(帯状回ヘルニア)

部位は大脳鎌です。大脳の内側面、帯状回や脳梁(左右の大脳を連絡する繊維)が大脳鎌の下縁を越えて反対側に嵌入した状態です。通常重篤な症状はきたしません。時に、前大脳動脈領域の脳梗塞を生じることがります(対側の下肢の麻痺)。

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