患者さんの皆さんからのご質問にお答えするコーナーです。

匿名ですが、内容は一般的なものに限らせていただきます。


 治療の選択について

私の通っている病院ではあまり検査はせず、精液検査や子宮卵管造影なども行っていません。クロミフェンを飲みだして半年になりますが、なかなか妊娠に至りません。このままで良いのでしょうか。

 その女性が妊娠するためには、

 1.診断(予想)が当たっていなければならない
 2.治療がその女性を妊娠させるに足る内容でなければならない

のです。不妊症の診断は100%確実なものでなく、あくまでも予想に過ぎません。
 よく新幹線に例えてお話しするのですが、東京から大坂に行くのに必要なことは、

1.大阪方面行きの車両に乗ること。
2.大坂までのキップを買うこと。名古屋までではダメです。
 この2点が大切です。

検査をせずに、内服をするのは行き先を確認しないでキップを買うのと同じです。
偶然行き先が当たることもありますが、普通はうまくいきません。
また、同じ治療を繰り返すのは同じ額面のキップを買い続けるのと同じです。
偶然お財布に乗り越しに足りるお金を持っていれば、大坂までいけることもあるかも知れませんが、持っていなければ名古屋で降りねばなりません。

 

 したがって同一の治療は私は3周期を限度にして、基本的に繰り返さないようにしています。半年間クロミフェンを内服されているとのことですが、今後はそれで妊娠されることは少ないように思います。

 今度はサイコロで例えてみましょう。1の目が出たら妊娠するとします。1回振って妊娠する人は1/6、残りの5/6の人がまた2回目を振ります。こうして1抜け、2抜けしていくと本来いつかは1が出て妊娠と言うことになるはずです。ところが現実にはいつまで振っても妊娠しない人がいます。

 もちろん振る回数が少なければ偶然が重なって1が出ないのかも知れませんが、100回振っても1が出ないと言うことは数学が得意でなくても何か変であることが分かると思います。では、なぜ1が出ないのでしょう。それはそのサイコロに1が書いていないからです。

 なかなか妊娠しない場合、1つの治療に固執せず別の方法にアプローチする、すなわち違うサイコロを振る必要があります。

   
   
   
   
   
   

 

   基礎体温について

排卵がない場合でも、高温期と低温期の差はあるのですか?
 基本的には1相の基礎体温であれば無排卵と言うわけですが、中には2相性であっても排卵のないことがあります。それを黄体化非破裂卵胞(LUF)といいます。基礎体温の上下は単純に黄体ホルモン(プロゲステロン)の分泌を示しているにすぎません。卵胞は排卵(破裂)がなくても黄体化すれば温度は上がります。
 2相性で他に異常がなければ本症を疑う必要があります。
 実際に排卵があったかどうかは、温度の上昇前に経膣超音波で十分なサイズの卵胞を確認し、温度の上昇があった後、それが潰れて見えなくなり黄体化(つまりちょっと超音波上白っぽくなり)が確認できて、かつ
お腹の中に卵胞が破裂した時に出る卵胞液が少量確認できることが必要です。これでも排卵を確認するための必要条件なだけで十分条件ではありません。お医者さんでも「多分排卵があったのだろう」くらいしか言えません。何しろ卵は100ミクロン、0.1mmしかありませんから超音波でも見えないのです(卵胞と卵を混同してはいけません)。
 したがって現実の排卵はとても患者の皆さんが把握できるような現象ではありません。
   
   
   
   
   
   

 


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