手打ちのこだわり
あなたにとって美味しい蕎麦とはどんな蕎麦ですか? あるいは、今まで最も美味しいと思った蕎麦屋の蕎麦はどんな蕎麦でしたか?蕎麦(正確には蕎麦切り)は、「麺そのもの」と「つゆ」に尽きる,といっても過言ではありません。 麺とつゆのハーモニー、あるいはデュエットでしょうか。 蕎麦の好き嫌いははその人そのひとの個性のようなものです。 ですから,押し付けは禁物。『あっ,美味しいな』と感じたときが一番です。
江戸前というか江戸流というか,とにかく洗練された蕎麦文化に対して 純朴,素朴,朴訥な田舎蕎麦が対峙します。が あくまでも,この区別はジャンルの問題で,勝ち負けや争いの問題ではありません。 常磐津や都都逸と民謡,労働歌の喩えが少しは似合うでしょうか。 いずれも心に染みるいいものです。 いずれの蕎麦も、五感に染み渡る素晴らしい食べ物です。 こうした食文化を育んだ日本の風土と先人の努力に心から感謝したいですね。 ところで,私の理想とする蕎麦は,先ず麺の美しさです。 色はやや白味を帯びて半透明,麺の表面の張りがあり艶やか。 そして,切り角が立っており、全体に瑞々しい。 次に香。含むと蕎麦の香が口いっぱいに広がリ、 食後も顔の周囲に蕎麦の香が漂っている・・・ つゆは返しと出汁が渾然一体となって,鼻頭に鰹節の控え目な香が香る。 新鮮な晒し葱と山葵は特有の薫りと味が身上。脇で麺とつゆを引き立てる。 最後に味と食感。 箸でつまむと弾力性があり,口に含むと存在感、充実感のある感触。 麺自体に粘りがあり、麺の芯に歯応えを感じる。 蕎麦特有の薄い甘味と淡白な旨み。 切れの良いなめらかな,抵抗のない喉越し。 とまあ,言葉にすればこんなところですが、 こんな美味しい蕎麦を出してくれる所はそうざらにはありません。 美味しい蕎麦を食べたいと思えば思うほど、自分で蕎麦を打ちたくなるのです。
そこで,心を決めて打ってみましょう、私だけの手打ち蕎麦!! これから紹介するのは、試行錯誤で2002年現在定式化した私の方法です。 どうぞ,参考にして美味しい蕎麦を打ってください。
■手打ち蕎麦の道具 良い蕎麦を打つためには、良い道具が必要です。 最初は、結構間に合わせの道具でもできますが、徐々に道具をそろえたいものです 【蕎麦打ちに必要な道具】 @ふるい………………………蕎麦粉、小麦粉をふるい、ごみを取り除き粉同士を混ざり易くします。 A計量器………………………粉の量を正確に計ります。 Bこね鉢(木鉢、ボウル)…「水回し」の行程で使う道具です。 C計量カップ…………………「水回し」に使う水量を正確に計ります。 Dスプレー……………………「水回し」の行程で水分の微調整に使います。 Eビニール袋(小)…………蕎麦玉を乾燥から守るために一時保管するときに使います。 F延し板(麺板)……………蕎麦玉を薄く(厚さ1〜2mm程度まで)延ばす道具です。 G麺棒…………………………生地を巻き付けたり生地上を転がしたりして薄く延ばす道具です。 H麺切り板……………………折り畳んだ生地を一定の細さに切るときの道具です。まな板。 I蕎麦切り包丁………………蕎麦を一定の細さに切り揃える特別の形をした包丁です。 J駒板…………………………蕎麦切り包丁を当てて、蕎麦を切り揃えるための道具です K生船(バット)……………切った蕎麦を保管する入れ物です。ゆでるまでの間の乾燥を防ぎます。 ※太字の道具は、特に重要です。蕎麦を打つにしたがっていいものが欲しくなりますので, 買い揃えるときは慌てず、先輩の意見を聞いたり慎重に調査して,時をかけて選ぶようにしましょう。 また,他の道具は代用品や自作で工夫すると,更に楽しくなります。
蕎麦打ちの格言@ 一鉢、二延し、三包丁 ※水回しが一番大切で,難しいんですよ。蕎麦打ちの格言A 蕎麦は“三立て”=挽き立て、打ち立て、茹で立て。 ※が,美味しいんですよ。
■いよいよ蕎麦打ちです。それでは二八蕎麦を打ってみましょう! ※蕎麦8に対してつなぎ(小麦粉)2の配合の蕎麦。不安な方は7:3で始めるとよりつなぎやすいです。
【材料】 配合表に基づいて量を正確に計ることが大切。目分量、勘は失敗の元 @蕎麦粉………………………新鮮な石臼挽きを求めたいですね。農産物直売場などで思わぬ発見が…。 A小麦粉………………………製粉して日の浅い強力粉。新鮮なものがいいです。これも直売場が穴場。 B水……………………………水道水より、できれば自然の湧き水を汲みに行くのもいいですね。市販の水もOK。 C打ち粉………………………芯粉、更科粉。無ければ通常の蕎麦粉でよい。片栗粉も使いよう。 ※つなぎとして卵白や自然薯、ヤマゴボウの葉や海草などを使い場合がありますが、先ずは上記4品でシンプルに挑戦しましょう。
【手打ち蕎麦の基本行程】
1、計量、ふるい@粉を計量し、ふるいにかける。 A粉同士を良く混ぜ合わせる。 2、水回し 手打ち蕎麦の行程で最も重要な作業。粉・水・空気を均等に混ぜる作業 蕎麦打ちの格言B “ずる玉”は打つな ※水っぽい蕎麦は、まずいですよ
B水の約50〜70%を粉に注ぎ込み、よく混ぜ合わせる。片手で加水、片手で粉に混ぜ込む。 通常は1/2ずつ3回以上に分けて加水する。 粉同士をこすり合わせて、粉と水と空気が均等に混じり合う要領で。 C粉の状況を見ながら加水する。水が不足する場合、スプレーで微調整する。 D「水回し」完了は、握り寿し程度の量を両手でよく練り、二つに折り曲げて潰した時に折り曲げた面にヒビが入らない状態。 3、くくり、練り 蕎麦粉、小麦粉、水、空気の内、空気を抜き出し、蕎麦玉にまとめる作業 E両手で蕎麦を塊にまとめ、全体を押し潰すような気持ちで練る。 丁寧に素早い動作で捏(こ)ね、粘り気を引き出す。 塊の表面がしっとり、滑らかになったら完成。 蕎麦玉にし、乾燥を防ぐためビニール袋に保管する。4、延し 適量の打ち粉を振り、手と麺棒を使い、蕎麦球を厚さ1mm〜2mm程度に全面均等に延ばし広げる作業 F延し板に打ち粉を一つまみ振り、その上で蕎麦玉を転がす。 玉がやわらかくなったら俵状に形を整え、円筒状に立て、手で上から徐々に潰していく。地延しという。 G円盤状に手のひらで潰すように伸ばしていき、厚さ1cm〜3cm程度に薄く延ばす。 H丸出し:麺棒を使いながら円形に延ばす。 生地の上を麺棒を転がし,手前に引くときに生地の左端に少し圧力をかける。生地が少しずつ回転してより丸くなる。 I角出し:円形に薄く延ばした生地を麺棒に絡ませて延し板の上を転がす。 このとき、生地の端の部分がタンタンと延し板を打つ。=「打ち」の語源。 この動作を生地の対角線上で行うと円形から四角形に変形する。 J肉分け:生地の厚みのある部分を麺棒で転がしながら延ばし、全体が均等の厚さになるように四角形の形を整える。 K四角い生地を麺棒で巻き取り、転がしながら薄さを整えていく。全体の厚さが均等(1〜1.7ミリ)になったら延しは終了。 5、たたみ 切りの事前作業。包丁の刃渡りに合う幅にたたむ L延し板に生地を半分広げ、広げた部分にやや多めの打ち粉を振り掛け、残りの生地を折り重ねる。 続いて半分に打ち粉を振り、折り重ねる。こうして包丁の幅分の広さに畳み込む。
6、切り 生地を麺にする作業。切り幅をそろえる Mまな板に打ち粉を振り、たたんだ蕎麦の生地を載せる。 切り口に駒板を当て、包丁で約1〜1.7mm幅間隔に切り進む。 23切分から30切分を1人分として束ね、打ち粉を払った後、生船に移す。 通常1人前は生麺で140g前後。
7、茹で 茹で時間は40秒以内。手早く冷水で締める Nたっぷりの煮えたぎったお湯に蕎麦を1人分パラリと放ち、30秒から40秒茹でる。 水嚢で手早く掬い上げ、冷水に放つ。 ざるで水を代えながら手早く水洗いし蕎麦の表面のぬめりを取る。 笊かせいろまたは皿に盛る。 ■つゆ 返しと出汁を1:4で合わせた蕎麦のつけ汁。辛汁。 @予め、返しを作っておく。(資料参照) A出汁 1000ccの水に昆布15cm、干ししいたけ2個、鰹節50g、さば節20g程度を煮出す。 昆布は沸騰直前取り出す。 B漉した熱い出汁に返しを加え、沸騰させないように暖めた後、冷水で冷ます。
■食す @食器 陶器市などで気に入ったものを少しずつ揃えるのも楽しいものです。 蕎麦猪口(「そばちょこ」または「そばちょく」) 蕎麦徳利 笊(ざる)または蒸篭(せいろ) 薬味入れ 山葵おろし(おろし金) 湯桶 A薬味 新鮮なものを用意しましょう 山葵 冷たい蕎麦には生山葵。手に入らない場合,練り山葵,粉山葵。 葱(ねぎ)切れる包丁で出来るだけ薄く切ったもの。 唐辛子 一味,七味(温かい蕎麦に向いてます) 辛味大根 冷たい蕎麦にも温かい蕎麦にも合います。 海苔(のり) B美味しい食べ方 環境問題も考えて竹製の割り箸を使いたい。 つゆは、蕎麦猪口に47%入れる。多すぎてはだめ。 つゆが少なくなったら蕎麦徳利で少しずつ追加する。 軽く蕎麦を箸で摘み上げ、下から半分〜65%だけつゆに漬け,啜(すす)りこむ。 もり蕎麦・ざる蕎麦の汁は辛めに調味されているので、少し漬ければよい。どっぷり漬けると、辛すぎる。 蕎麦がなくなったら,つゆを蕎麦湯で割って飲む。ご馳走様でした。 資料 【蕎麦の配合例】
| 比率 | 80.00% | 20.00% | 標準 42% | 乾燥季 45% | 湿潤季 40% | 蕎麦球重量 g | 人前 | |
| 蕎麦粉 g | 強力粉 g | 粉合計 | 水 cc | 11月〜4月 | 5月〜10月 | |||
| 標準 | 600 |
150 |
750 |
321 |
338 |
300 |
1071 |
7.7 |
| 10人分 | 800 |
200 |
1000 |
429 |
450 |
400 |
1429 |
10.2 |
(注)北関東を基準にしてます。蕎麦粉や強力粉の含水率は不明です。できるだけ少なめに加水し、微調整することが大切です。(©渡邊2000)
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