私と賞味期限

             岡部光祐

もう何年になりますかねぇ。彼と出会ってから。
最初に彼の存在を知ったのは新宿村での稽古場でした。

日野原氏、清水氏、鈴木氏、雅稀氏、青木氏の紹介で知り合ったのですが、
最初の彼の感想は

「なんか気味が悪い。」

その頃の私は、地方公演から帰ってきたばかりで心身ともに完全にやられている状態でした。
とてもじゃないが彼を受け入れる余裕が無く、

「すいません、今回はお手伝いという事で、協力させてもらいます。」

という訳で最初の彼の姿を舞台袖から見る事になりました。

彼はおぼつかない足取りで、しかしながら、ゆっくりゆっくり歩き出しました。

「大丈夫なんだろうか、彼は。」

この時点で彼の術中にすでにはまっていました。
それからというもの彼の成長をずっと陰で支え、そして見守ってきました。

しかしある時、彼は忽然と私の目の前から姿を消したのです。

私は捜しました。彼が向かいそうな所を、そして彼が向かうべき所を…。
泣きました。声が枯れる位、泣き叫びました。
そして、心にぽっかりと穴があきました。

あれから何年たったでしょうか。
私はすっかりと彼の事を忘れ、とりとめのない毎日を何の感情の起伏もなく過ごしていました。

日差しやわらかいある日、私は友人とドトールでコーヒーを飲んでいました。
すると視界のすみに何やら見覚えのある姿が。
その彼はアイスカフェオレをもって私の前に座り、
にっこりと笑いながら

「ごめんね。」と言いました。

私は彼を責める事も怒る事もなく、ゆっくりとうなずきました。

なぜなら彼とはこういう運命になると感じていたからです。