1 被害者の交渉相手はプロ 2 損害保険会社の支払抑制体質 3 保険金支払抑制の仕組み @ 賠償金額を決めるのは、保険会社 【裁判・調停件数の推移】 【紛争処理センター示談件数】 A 対人賠償保険は、さじ加減が容易 B 任意保険会社の対人賠償支払基準 C 任意・自賠の一括払制度 4 専門家利用のすすめ 5 最後に 1 被害者の交渉相手はプロ
*農協共済をはじめとする各種共済を除いた、損害保険会社の任意自動車保険「対人賠償」の普及率は平成16年3月末で約7割(71.1%)となっています。 保険会社による示談代行サービスは、賠償責任保険*に付いているので、賠償責任がある側=加害者側はそのサービスを受けることができます。 *賠償責任保険: 賠償責任を負うべき者の損害賠償金支払いを保険会社が肩代わりする保険 したがって、交通事故で人身に損害が生じた場合、賠償する側の加害者の方は、任意保険を付けていれば、気が重く難しくて煩わしい賠償問題の解決を、保険会社任せで済ませてしまうことができます。 他方、被害者は賠償を受ける側ですので、たとえ任意保険に入っていても、保険会社が代わって解決してくれることはありません。ご自分で対処しなければなりません。
他方、損害保険会社の査定社員は、職業として交通事故による損害賠償問題に日常的に関わっています。必要な知識はそれなりに習得していますし、圧倒的に場数を踏んでいます。 このように、被害者と保険会社の査定社員、この両者の間には、交渉に必要な専門知識と経験などにおいて歴然とした較差が存在しています。 しかも、そもそも各査定社員は、損害保険会社という大企業の損害査定部門の出先機関である各地サービスセンターの一構成員に過ぎません。彼の背後には、上司・代替要員他の社内専門スタッフ及び社外の損害調査会社・嘱託弁護士・嘱託医など、充実したバックアップ体制があります。
ただ、保険業の場合、公共性が高いので保険業法という法律により内閣総理大臣の免許が必要になっており、国から一定の監督を受けます。したがって、任意保険会社には、交渉のやり方、支払いの内容・程度につき一定の制約があります。 2 損害保険会社の支払抑制体質
自動車保険の事業を大まかに言えば、統計的確率に基づく保険数理によって保険料率を定め、個々の契約者の諸条件に応じた個別具体的な料率によって計算した保険料を支払ってもらい、それらを集めて収入とし、その中から個々の事故によって生じた具体的被害実態に応じて保険金を支払い、また、その他の諸経費等を支出し、残ったものを利益とする営利事業です。 保険金の支払いが少なくて済めば、それだけ利益が多く残り、逆に、保険金の支払いが多くなれば、その分利益が少なくなってしまいます。 ここで、保険金の払いっぷりが良ければ売り上げが伸びるというような関係はほとんどなさそうですし、そもそも支払いの適正度を評価・検証し公表する制度*がありません。 *例えば、対人賠償保険金の支払い実態について中立機関が各社毎に査定し、その適正度を審査し公表して、それが自動車保険に加入する際の保険会社選びの重要な指標にされることにでもなれば、“払いっぷり”(=支払いの適正度)が良い会社が売り上げを伸ばす、という喜ばしい展開もありえましょう。 経営上は、保険金の支払いは、利益の減少を意味することになります。 保険会社が保険金の支払いをできる限り抑制しようとする のはこのような理由からで、損害保険会社も営利企業である以上は当然だと見るべきでしょう。「健全な」支払抑制であれば、保険会社の健全な経営のためには必要だと思います。 *暴力団及びその周辺、示談屋、意図的に誇張した症状を訴える者、労働意欲のない者などに関係してくるケースです。 問題は、健全ではない支払抑制(いわゆる「出し渋り」・「払い渋り」)が少なくないことです。* *経営状態の悪い会社ほど、収支改善に手っ取り早い“払い渋り”をしがちになるだろうし、経営能力の低い会社、経営理念の低い会社ほど、安易なやり方である“払い渋り”に頼ろうとすると考えられます。さらに、規制緩和以前は最劣位の保険会社をも安定的に存続させるべく採られていた“護送船団行政”が、過去のものとなりました。 自由競争の原理が導入され、外国社及び生保が続々と新規に参入し、通信販売等の販売方式の拡大等により新たに価格競争も生じてきています。このような背景下、損保業界は合従連衡がすすみ、勝ち残り競争の様相を呈しています。 そんな中で、契約者保護のため経営の健全性が強く求められてくるようになり、その反作用で保険金(賠償額)の支払いはますます抑えられる傾向にあるのだろうと思います。 3 支払抑制の仕組み @ 賠償金額を決めるのは、保険会社 実際に保険会社が支払いを抑制しようとすれば、支払い段階で実現可能な対応をとることができます。あまりにも当たり前のことですが、保険会社は加害者側の代理人という以上に、そもそも保険者なのです。 仮にどんなに請求内容が正当・適正・妥当なものであっても、保険会社は払いたくなければ払いません。但し、裁判で決まれば支払わない訳にはいきません。 何をもって、「正当」・「適正」・「妥当」とするか?この問題は、そう単純ではありませんが、ここではとりあえず、判例に照らしてみればと言うほどの意味です。 任意保険基準と判例傾向との較差をどう捉えるかによって、この「適正」の捉え方も違ってくるように思います。 ただ、「法律上の適正な損害額」というときは、任意保険基準で算定したものは該当しないでしょう。 本来、ある保険会社の「対人賠償支払基準」は、法律上、一私企業の示談の際の支払い目安にしかすぎないものです。その規範性は、裁判上何ら認められてはおりません。 しかし、被害者との直接交渉では、事実上、決定的な基準として機能しています。 ちなみに、統計的事実として、多くの場合、裁判にはなっていませんが、徐々に増加傾向にあります。 A 対人賠償保険は、さじ加減が容易 賠償責任保険の場合、生命保険の死亡保険金のように契約時にあらかじめ決めていた保険金額がそのまま支払われるのとは違います。 保険金額を上限として実際に支払われる保険金の額は、被害者に関わる個別の条件、例えば入通院期間・休業期間・後遺障害の程度・収入・年齢など(損害額決定要素)や事故態様など(減額要素)などにより千差万別に異なってきます。 つまり、具体的な支払い保険金の額は、事前には保険金額という支払い可能な上限額以外一切決まっていません。事故後に決められます。 後は被害者の瑣末な要求をある程度受け入れて適当に不満を解消したり、被害者にとって不利な点、例えば過失相殺を指摘及び強調して矛先をそらしたり譲歩を迫ったりして、多くの場合当初の目論見の枠内で収まりをつけることができるわけなのです。 損保査定員の交渉の手法及び内容が一定の限度を逸脱しない限り、通常、見解の相違だとか、交渉上の駆け引きとして、任意保険基準の運用枠の範囲内の問題と見なされることになりましょう。しかしながら、現実は結構逸脱があるように思います。 被害者の基本的な心構えとしては、被害者だからといって何にもかも保険会社任せで済ませようとはせず、自分の言い分をしっかり主張し、その裏付を示し、正当な補償を要求しようと考えて行動する方が、ずっと良い結果になりやすいでしょう。 B 任意保険会社の対人賠償支払基準 平成9年頃まで損保各社共通の対人賠償保険の支払基準があり、それによって損害額が算定されていたようです。しかし、その後、規制緩和・自由競争ということで統一基準は廃止され、各社が独自に支払基準を作成するようになっています。しかし、実際のところ、各社間の差異はあまり生じてはいないようです。 ところで、任意保険基準は、裁判基準(弁護士基準)と比べ妥当な水準と言えるのでしょうか? 死亡や後遺障害の慰謝料の任意保険基準額は、裁判基準に比べあまりに低すぎるのではないでしょうか? 一般庶民が司法に対して抱く敷居の高さ*を逆手にとっての、低過ぎる支払基準の設定だという感じが否めません**。 *司法の一翼を担う弁護士の代表的な人物であった元日弁連会長中坊公平氏は、司法改革に関し司法の現状について、本来果すべき全体の2割しか機能してはいないとの認識を“2割司法”という言葉で表明しました。 **不合理な基準の較差は、もとより被害者のために良くないし、保険会社の健全な査定業務の遂行のためにも良くないだろうと思います。 経営者サイドは経営的合理性の観点から、合理的な範囲の較差だとの判断をしているのでしょう。 現実は先に述べたような保険会社のやり方が結構通用しています。 一つには「一括払い」と言って任意保険会社が強制保険である自賠責保険の分も立替払いする制度が、任意保険会社の支払抑制体質を見えにくくしているからだと思います。 被害者の目には、任意保険会社が支払ってくれたものは、全て任意保険会社が最終的に自ら負担したものとしか見えないからです。自賠責保険支払相当額は後で自賠責保険から回収するのですから、一時的に立替払いをしただけにすぎないのですが・・・.。 無論、その分を加害者が賠償したことになることには違いはありません。 とにかく理屈はどうであれ、保険会社の支払い抑制は避け難い現実に違いありません。被害者の方としては、知識不足を克服しない限り、保険会社の提示案に対する的確な分析・評価は難しいですし、有効な反論あるいは確固とした主張をすることはさらに難しいでしょう。 知は力なり 「知」即「知識」ではありませんが、「知っている」ということは、場合により決定的意味を持つことがあります。 「知る」ということは、従来からある市販書籍、さらに最近ではインターネット上の多くのホームページにより、保険会社の内部的な情報も含め、かなりの程度できるようになりました。 それでも、玉石混交の多くの情報の中から、正確な情報を選別し、そしてご自身の個別具体的なケースに合った必要なものを必要なだけ探し出すことは簡単ではありません。 そもそも肝心の知りたい情報が開示されてはいないということも少なくありません。例えば、対人賠償支払基準は各社独自に作られていますが、どの会社も開示してはおりません*。 *対人賠償支払基準は対人賠償保険の契約内容を構成していると思われますが、万一人身事故を起こした場合に被害者に対してどれだけの賠償を果してくれるかの具体的中身についてまでは、約款に規定されていません。 ちなみに、「人身傷害補償条項」の損害額基準は各社とも約款の中に謳い込んでいますが、その基準がその会社の「対人賠償支払基準」にかなり近いのではないかと見ています。というのは、人身傷害補償保険は被保険者の過失相殺率に関わらず、その実損を100%てん補するとの謳い文句であるからです。 交通事故の損害賠償問題は、法律、各種保険制度、医学などに関わる専門的な分野*です。 * 専門的な情報を正確に理解することは容易ではありません。 あなたがお一人でお困りであれば、交通事故の賠償問題を手掛けている行政書士または弁護士にご相談をなさってみることをおすすめ致します。また、弁護士会、自治体等の無料の相談機関もありますので、複数の意見をお訊きになられてみれば、おおよその目途が付かれると思います。 5 最後に 一人は万人のために、万人は一人のために これは保険精神といいますか、保険の理念です。 自賠責保険及び自動車保険は、現代の超“車社会”には、必要不可欠なインフラです。 強制及び任意の両自動車保険が、それぞれにその特長を存分に活かし、その真価を遺憾なく発揮することができれば、人身被害者は大いに救われます。 例えば、保険会社がする対人賠償責任保険での基本的な支払保険金額は被保険者が損害賠償請求権者に対して負担する法律上の損害賠償責任の額 (自動車保険約款 賠償責任条項 「支払保険金の計算」より。なお、細部は省略。)すなわち、自賠責保険を合わせると、法律上の損害賠償責任額が全て補償されます(保険金額による制限はあります)。ただ、基本的には一定の主張・立証上の責任が被害者側にありますので、それらがどの程度になされるかによって「法律上の損害賠償責任の額」が変わってきます。 私は行政書士法の範囲内で情報提供や書類作成を通し、被害者の方の保険請求手続のお手伝いを致します。 *保険業法第1条 自らを制御することは必要ですが、一般的には自分で自分を律することは相当に難しいことです。三菱自動車の欠陥自動車問題、あるいは役所の不正支出問題などで垣間見ることができます。 平成13年には自賠法の改正が行われました。政府再保険が廃止され、それに伴い政府の監督が及びにくくなりました。その代わりに保険金支払チェック体制の確立と被害者救済の充実を図るための新たな規定も織り込まれました。
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