HP『しろく』へ





第3.50話 さつきちゃんへ


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 それから突然だけど、さつきちゃんに謝りたいことがあります。
 私、あの大雪の日のことをずっと忘れてしまいたいと思っていました。さつきちゃんのことも、あの日に出会った男の子のことも。一度に2人の友達と会えなくなって、とても辛くて悲しかったから、本当にごめんね。

 しばらくは、忘れちゃ駄目だって思ってた。私が忘れちゃったらさつきちゃんが完全に消えてしまうような感じがしたから、でも寂しくて仕方がなかった。

 私、退院した後、あの男の子を探したの。もしも、あの男の子ともう一度会うことが出来れば、さつきちゃんともまた会う事が出来るんじゃないかと、子供心にそう思ったの。

 さつきちゃんが一度も通う事が出来なくて、ずっと行きたがっていたあのN小学校。生徒数が全国で一番多い学校になったんだよ。私が入院するまえ一年生は11クラスもあったの。
 それまでは確か大阪の小学校が一番で、二番が名古屋だったはず。でも、一番と二番の学校はそれぞれ2つの学校に分かれて生徒数が減っちゃったから。
 でも、一番になった途端にS小学校が出来てしまって、私が退院した時にはもう3クラスも減っていたわ。学校中を回って探してもみつからなかったから、きっとあの男の子はS小学校に通ってたのね。

 三年生の冬にもあの時みたいに大雪が降って、確か5年生の時もその二年後も。そのたびに、あの日のことを思い出さずにはいられなかった。
 5年生の時に一度だけ、S小学校のグランドで雪像を作ることを知って行ってみたの。たとえすれ違ったとしても、きっとあの男の子だとは気付かないことは判っていた。それでも、ほんの少しでもあの日に帰れるかも知れないと思ったの。
 全然、戻る事なんか出来なかったけど、それが忘れようと思ったきっかけにもなった。その日から冬も雪も嫌いになって、高校を卒業してから石川県を離れて雪の降らない所に行く事にしたの。

 今住んでいるのは九州、福岡県の北九州市というところ。こっちの大学に進学して、就職もこっち。
 私、九州には雪は降らないと思い込んでいたけど、そっちほど降ることはないけど、多い時は靴が埋まるぐらい積もったりするの。それに男の子の作ってくれた『雪ウサギ』も、雪の日に見ちゃったの。
 でも、それはただの『ネズミ』だったんだけど、どこに行っても忘れる事なんて出来ないことを思い知らされた感じがした。

 それまで、さつきちゃんの事も男の子の事も、誰にも話したことはなかった。なんだか、誰かに話してしまうと、ただの思い出のようにとても軽いものになってしまう気がしたから。
 でもね、それを真剣に受け止めてくれる人がいたの。その人はこう言ったわ。
「絶対に忘れちゃいけいなよ。きっと、君はさつきちゃんと一緒に生きてるんだ。忘れてしまったら、本当にさつきちゃんは死んでしまうんだよ。それから、その男の子の事も…。」
 だから、私、冬も雪も大好きになったの。そんな風に私を変えてくれたあの人も好きになった。
 さつきちゃん。私、結婚するよ。あの人と付き合った三年間とっても楽しくて、幸せだった。
「もしも、女の子が生まれたらさつきって名前を付けようね。」そう言ってくれたの。

 忘れてしまいたいなんて思って、本当にごめんなさい。これからも、さつきちゃんとはずっとずっと友達だよ。


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 あの子の友達になってくれたこと、あの子を忘れずにいてくれたこと、そして結婚の報告まで…本当にありがとう。あの子もきっと喜んでいます。
 あなたがずっと苦しんできたなんて、知らなくて本当にごめんなさい。

 素敵な人にめぐり会えたのね…まるであの子のことのように嬉しいです。幸せになってくださいね。御結婚、おめでとうございます。

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This story was written by Dink in HP『しろく』.