第2話 組みあがらないパズル |
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披露宴の最中、すみの方で話している同僚の女の子たちが小声で話しているのが聞こえて、 ―あんなことがあったけど、やっと沙知も高橋さんと結婚して幸せになれるよね。 たばこの火が街のネオサインに同化するかのようにかすんでみえる。 「やめろよ。馬鹿なまねはよせよ。」 いっこうに僕の手をふりほどこうとするその女性の力は弱まらなかった。 無理矢理、あの人が…。だから、どうでもいいの。お願いだから死なせて…。」 僕もその女性を抱きしめている手に力をこめた。 電車が通り過ぎて遮断機があがるのに少しほっとした。 そして、女性の力が抜けて落ち着いたかのように見えた。 しかし、女性を抱きしめる手を緩めた瞬間、その女性の叫びにびくっとした。 女性の手をつかんで静止するのがやっとだった。 僕が誤解されやしないかと周りを見回すと、後ろの方に沙知さんが立ちすくんでいるのが見えた。 僕がつかんでいた女性も「お願い離して」と叫びながら、さらに振りほどく力を強めた。 通りがかりの男達が僕を押さえつけるのと、僕がその女性の手を放してしまうのは、 ほぼ同時だった。 その女性は僕から逃れると少し離れたところで立ちすくんでいた。 無常にも踏み切りの音が鳴り始めた。 遮断機をくぐったところで、その女性は倒れこんだ。 それはまるで踏み切りの中でただころんだだけのようにも見えたが、その中で起き上がろうとはしなかった。 彼女が叫ぶ声に僕を押さえつけていた男達が、 女性が踏み切りに倒れこんだことに気付いて呆然としていた。 その隙に僕が男達からすり抜けることが出来た時には、電車のブレーキをかけた音が響いていた。 電車が止まった時にはもう、完全に踏み切りを通り過ぎていた。 僕はまるで赤のペンキをぶちまけたような真っ赤に染まった踏み切りを見つめて、 ゆっくりと歩いていた。 「何でだよ…。」そうつぶやいた僕は泣いていた。 ゆっくりとゆっくりと、踏み切りに向かって歩いていた。 一番大きい塊と、転がっていた腕を踏み切りの外へと引きづりだして、 ちぎれてなくなっているひざ下を探してあたりを見回すが見当たらなかった。 急に体中の力が抜けて遮断機に崩れ落ちるように倒れこんだ。 塊となったその女性の体が僕にのしかかった。 ひしゃげた頭に手をあてると、これがあの女性とはとても思えないほどだったが、 かろうじて右目だけが静かに僕を見つめていた。 女性の頭を抱き寄せた時、同僚の高橋が立ちすくんでいるのを見つけた。 すぐに誰にも気付かれないようにと逃げていく姿を僕は見つめていた。 何度も何度もそれを思い出しては、僕は叫んだ。 でもその調子だと心配ないな。そのままでいてくれよ。」 |
This story was written by Dink in HP『しろく』. |