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第3話 孤独な暗闇


 なんとなく、私は交通事故に巻き込まれた直後なのだと判る。
全く身動きが出来ないが、痛みは不思議と感じない。
暗闇が私を取り囲んでいる。
 そうだ、私はもう死んでいるのだ。

 事故の後からのしばらくの記憶はない。
たくさんの人たち、もちろん家族の姿もある。
 皆、タイヤの付いた台に寝かせられた私を取り囲んで泣いている。
今、エレベーターのボタンを押して、扉が開くのを感じる。
 暗闇の中にいる私は、非常に小さい物音も大きく聞き取れる。
周りの雰囲気も目に見えるように感じ取れる。
 殺風景な廊下に響く音は、特に耳障りに感じた。

 話せるものなら言ってあげたい。
「私は死んでいるのだ。どんなに処置を施しても手遅れなんだと…。」
 そう思いながらも悲しくなってきた。
おそらく、無駄と判っていても何か手を施したいのだろう。
 「もう、期待しないでおくれ…。私は死んでいるのだから。」
そう伝えることが出来れば、皆の悲しみも少しは和らぐのではないかと思う。

 エレベーターの中に押し込まれた。
次に開く時には上の階で待っている医者や看護婦たちが手術室に私を運び込む。
出来る限りの手を施すだろうから、慌しくなるだろう。
 もうやめてくれ、私は死んでいるのだから。
私だけが乗せられたエレベーターは、いっこうに動く気配がない。
 ありがたい。もしかしたら、あきらめてくれたのだろうか!?

 私を圧迫している暗闇が、明かりに押しつぶされるように小さくなっていく。
せめて、この明かりの中で死というものに、徐々に浸れるのはありがたい。
 たとえそれが、ごうごうと燃える炎であっても。


 誰にでも勘違いというものはある。
それが、あまりにもとんでもないとんちんかんだったら…。
 せめて、後で人に話して大笑いで笑ってもらえれば良いのだが、
それが出来ない場合にはとても悲しく損した気分になる。

This story was written by Dink in HP『しろく』.