1. 鉄の黒染処理(四三酸化鉄皮膜処理)の表記
鉄の黒染処理は、図面上での表面処理の欄に、四三酸化鉄皮膜処理と明記し、(黒染処理)と書いてあるものが圧倒的に多いようです。
時には、四酸化三鉄皮膜処理(黒染処理)と書いてあるものもあります。
単に黒染処理であると、常温の微酸性処理液の処理や熱と水蒸気で作る黒染皮膜等と勘違いすることもあるからかもしれません。これらの常温でできる皮膜は大抵、四三酸化鉄の皮膜ではありません。
アルカリ着色と明記すれば、ほぼ高温のアルカリによる黒染になると思います。
100℃以下でアルカリ性溶液で鉄の黒染はできないことはありませんが、皮膜は四三酸化鉄でない場合が多いようです。
2. 鉄の黒染(四三酸化鉄皮膜)の性質
四三酸化鉄皮膜は、素地の鉄そのものが、高温のアルカリ溶液中で、酸素の拡散・滲透により、表面より内方向に滲透され変化したもので、そのため密着がよく、鉄の素地の硬度とほぼ同じくらいで、素地の性質が生かされています。寸法変化もほとんどなく、精密なものに適しています。防錆力は、塩水には弱く、塩水と化学変化するため、塩水試験で検査するものには適していませんが、空気中で水気のない状態での防錆力はなかなかのものです。用途は、水に触れないところで使用されるものに適しています。
3. 鉄の黒染(四三酸化鉄皮膜)の概略
鉄の黒染皮膜は四三酸化鉄皮膜です。
四三酸化鉄皮膜は四酸化三鉄のことで、酸素が4、鉄が3の比率になっている黒色の酸化皮膜です。
鉄が酸化されて、〔FeOからFe2O3へ〕、酸化鉄となり、安定な状態の酸化物となったときに黒染皮膜が完成されます。
その黒染皮膜が四三酸化鉄皮膜です。
しかし、この過程はなかなか難しくて、鉄の隙間に酸素が入るのか、酸素の隙間に鉄が入るのかよくわかりません。
酸化過程ですから表面酸素層にまで鉄が拡散されて、安定な状態の逆スビネルの構造となったときに、その比率がFe=3、O=4に近いFe3O4の皮膜になっているのだと思います。
それが四三酸化鉄皮膜といわれる黒染皮膜です。
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4. 鉄の黒染(四三酸化鉄)の生成
四三酸化鉄は、Fe3O4のことで、磁鉄鉱、magnetiteと呼ばれ、FeOとFe2O3が、1:1に固融した酸化物とも考えられます。
鉄の黒染皮膜として化成するときは、まず鉄の表面に酸素が吸い付けられて、酸素格子が表面上に成長して、FeOができます。
普通の黒染処理といわれているものは、150℃くらいの熱がありますので、Feのイオン化が促進されて表面にFeの拡散が徐々に起こり、Fe3O4ができあがります。
そして、安定な状態の逆スビネルの構造となったとき、その比率がFe=3、O=4に近いFe3O4の皮膜になっているのだと思います。
それが四三酸化鉄の黒染皮膜だと思います。
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5. 鉄の黒染(四三酸化鉄皮膜)の構造
鉄の黒染皮膜はFe3O4皮膜だと言われています。
鉄の酸化物には、FeO、α-Fe2O3、γ-Fe2O3、Fe3O4などがあります。
酸素イオンの立方最密充てんの構造の酸素の隙間にFe2+、Fe3+が詰まっている構造の1種がFe3O4なのです。
しかし、この構造はなかなか難しくて、酸化過程として、安定な状態の逆スビネルの構造となったときに、その比率がFe=3、O=4に近くなります。
このFe3O4の皮膜が鉄の黒染皮膜といわれる四三酸化鉄皮膜です。
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6. 鉄の黒染(四三酸化鉄) Fe3O4 の呼び名
四三酸化鉄という呼び名は、相当古くから、そう呼ばれているので、多分、慣用名かと思っています。若しくは、最初にそう名付けられたのかとも思います。
FeOは、酸化第一鉄、あるいは一酸化鉄、Fe2O3 は、酸化第二鉄、通常酸化鉄といわれています。
Fe3O4 は、Ferrous ferric Oxide、天然には磁鉄鉱として存在しています。物理的、化学的方法で作成されたものは、triiron tetraoxide と呼ぶことが多いので、四酸化三鉄と呼ぶほうが化学的呼称に思えますが、結局は同じものでどちらでもいいような気がします。
化学辞典では、Fe3O4 ・triiron tetraoxide となっています。
そのままで四酸化三鉄でしょう。
いずれにしても鉄の黒染皮膜は、黒色酸化皮膜とか四三酸化鉄皮膜と言われていますし、四酸化三鉄皮膜は、鉄の黒染皮膜であるといえます。
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7. 鉄の黒染(四三酸化鉄皮膜)の由来
鉄の黒染(四三酸化鉄皮膜)は、屋内で使用する精密部品に対して効果のある防錆処理法です。古くは、鉄の錆付法より始まり、効率の良い高温アルカリ着色法・鉄の黒染(四三酸化鉄皮膜)処理に到ったようです。鉄の錆付け法の頃出来上がった皮膜は、単純な四三酸化鉄皮膜というのではなく、複雑な混合皮膜が多かったように見受けられます。金気止め、サビ止めを行い、鉄醤を掃きかけ、タンニン塗り、漆かけを行い、茶色から黒色に仕上げたものが多くみられます。南部鉄器などがその代表的なものです。硬度や精度を考慮しなければ、防錆力はこれらのものが格段に優れています。しかし、高温アルカリ着色法・鉄の黒染(四三酸化鉄皮膜)処理は、精密機械部品に適用する場合は、とても良いものだと思います。鉄の黒染(四三酸化鉄皮膜)は、古来、現代に適用される鉄の防錆法かな、と思っています。
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