生徒によるライブレポート

寺井(p)〜鷲見(b)デュオの魅力

鷲見さん 1. はじめに

ここでは寺井〜鷲見デュオの魅力について僕なりに紹介します。その為に次の手順で寺井〜鷲見デュオの魅力に迫って行きたいと思います。まず、寺井〜鷲見デュオは寺井さんのピアノと鷲見さんのベースとのデュオによるプレイです。そうであるとすれば寺井〜鷲見デュオの魅力言う時にはその底にデュオと言う演奏形態が持つ魅力があるはずです。それから鷲見さんがどんなベースプレイヤーであるか紹介する必要があるでしょう。次に、これとの絡みで寺井〜鷲見コンビのプレイについて書いてみましょう。また、寺井〜鷲見コンビの魅力を語る時にそのレパートリーの持つ魅力を忘れる訳にはいきません。そしてこれらを踏まえて寺井〜鷲見デュオの魅力について書いてみたいと思います。

2. デュオの持つ魅力について

当たり前のことですがデュオにしろトリオにしろ共にプレイをする以上、それぞれが勝手なプレイをする訳にはいかないでしょう。共演者のプレイの意図を読み取り、その呼吸あるいは間合いに合わせて、それとの調和と均衡を図りながら自分のプレイの地歩を固めていくことになるでしょう。言い換えれば、他のプレイヤーと交わされる互いのプレイでの交渉を通じた相互の距離の確認と言うことになるのでしょうか。しかもその距離は曲により、また曲の様々な局面で変化を見せてくれます。もっとも僕などは発表会でフラナガニアトリオをバックに演奏する時はバックを無視して突っ走ってしまいます。他のプレイヤーとの距離などあったものではありません。少々、話が脱線しました。

カルテットであれトリオであれ演奏中は常に相互に相手のプレイを意識しながら自分の位置を測って曲を自分の思っているとおりに構成していかなければならないでしょう。でも、デュオでは二人で一つの曲を造り上げていく以上、相互の距離をいかにとるかによりそのデュオの特徴が出てくるでしょうし、出来不出来が左右されるでしょう。そうであるとすれば、互いにそのプレイでの交渉を通じた相手に自分のプレイや距離の確認は特に重要なものとなってくるでしょう。このプレイヤーとの間の交渉が僕には二人のプレイヤーが会話を交わしているかの如くみえるのです。僕がデュオと言う演奏形態に魅力を感じるのは、プレイにおいて展開される時に緊張感溢れる、時にユーモアに満ちたプレイヤーの会話にじっくりと耳を傾けることができるからです。

3. 鷲見さんはどんなベースプレイヤー?

次に僕なりに鷲見さんのプレイがどんなものであるかについて感じる所を書いてみます。 僕は鷲見さんのベースは聴いていて切れ味の鋭さ感じます。この切れ味の鋭さは何処から来るのでしょうか。まず鷲見さんのベースはベースとしてはやや明るめの音色であるように感じます。この音色が切れ味の鋭さを引き立たせる。鷲見さんのプレイでは高音から低音まで広い音域を自在に使用します。鷲見さんもベーシストである以上、当然に中低音を基盤としているのでしょうが、それにこだわらずより自由に高音域まで取り入れたプレイを展開しようとしているように思えます。鷲見さんのプレイでのもう一つの特徴はやはり十六分音符でのフレーズです。これがプレイに流れを生み出し、この流れの中に味わいを感じると言えます。この二つの特徴が結びついた時、鷲見さんのプレイには高音域から低音域への鯉の滝登りのような、あるいは逆に低音域から高音域への逆落としの鷲見さんならではのものである流れるようなフレーズはもとより同じようなフレーズを高音域と低音域で展開してその対照によりフレーズの面白味を倍増させると言ったことが生み出されるのでしょう。

ただ、切れ味の鋭さを感じさせるのみのプレイならばちょっと聴くには良くても、じっくりと聴くには苦しいでしょう。鷲見さんのプレイでは切れ味の鋭いフレーズに終始するのでなく同時にメロディアスなフレーズを交えたりあるいはその曲に関連する曲のテーマを挿入してユーモアを生み出すなど硬軟織り交ぜたプレイを展開することによりプレイ全体を変化に富んだものにしてくれます。

4. 寺井〜鷲見コンビのプレイについて

鷲見さんがこのようなベースプレイヤーであるとするならば、寺井さんはどういった会話を交わそうとしているのでしょうか。これは僕には分析能力はないのですが目に映った所を書いてみます。まず寺井さんの変化に富んだ流麗なピアノのプレイと上で見たような鷲見さんのベースは非常に相性が良いように思われます。寺井〜鷲見コンビのプレイに耳を傾ける時、僕にはピアノの描くラインとベースの描くラインが時に離れ、時に交差する姿をイメージすることがあります。正に互いに距離を測りながらのプレイですね。

またピアノとベースが共にメロディアスなプレイを展開してくれる点でも両者は相性が良いのではないでしょうか。加えて寺井さんが鷲見さんのベースの特性を心得て、自分の懐に呼び込むようなフレーズを奏でる、つまりおいでおいでと手招きをすると、鷲見さんのベースも「心得たり。」とそれに合わせたフレーズを挿入する。この辺りもこのコンビのプレイが持つ面白味の一つと言えるでしょう。

5. レパートリーの魅力について

寺井〜鷲見デュオのレパートリーの魅力は、と聞かれると僕は第一に寺井さんのセカンドアイドルであるローランド・ハナさんにちなんだ数々の曲が聴かれることを挙げたいですね。寺井〜鷲見コンビの代表的なレパートリーであるI Wants To Stay Hereもある意味においてハナさんにちなんだ曲の一つと言えます。皆さんの目はどうしてもファーストアイドルであるトミーフラナガンに向けられるようです。しかし、寺井さんのプレイを平面的なものではなく立体的なものとして捉えようとするならば、やはり正面のみに目を向けるのではなく別の面にも目を向ける必要があるのではないでしょうか。寺井〜鷲見コンビのデュオはそれをするのに打って付けではないかと考えます。

レパートリーの魅力の第二はDenzil's Bestに代表されるベースをフューチャーした曲にあります。これによりベースの楽器としての魅力が堪能できます。

6. 寺井〜鷲見コンビの魅力

寺井〜鷲見コンビのプレイの持つ魅力とレパートリーの魅力を見てきましたが、この二つが融合したところに寺井〜鷲見コンビの魅力が生じてくると言えるでしょう。ただもう一つ重要なことを付け加えるならばI Wants To Stay HereあるいはDenzil's Bestその他の曲にしても一年の内に何度もプレイされてコンビの手により絶えず新たな解釈を施されて練り上げられたものであることです。僕はここにコンビが自己の表現手段であるそれぞれの曲をその手垢が染み付くまで演奏しぬく姿勢を感じます。これにより演奏される曲はどんどんと熟成していき、その内に持つものを発散するようになる。これを曲の発酵作用とでも呼ぶならば、寺井〜鷲見デュオの何よりの魅力はこの発酵作用にあるのではないかと思います。

7. おわりに

以上、寺井〜鷲見デュオの魅力について僕なりに考えてみました。そして寺井〜鷲見デュオの何よりの魅力は発酵作用にあるのではないかとの結論にたどり着きました。その過程は寺井〜鷲見コンビにはこう言った魅力があるから聴いてみよう、との姿勢でした。しかし、コンビの魅力は発酵作用にあるとの結論を出した今、コンビに発酵作用を促すものは何かとの思いが湧きあがってきます。それは他でもない寺井〜鷲見コンビのプレイを聴く個々人ではないか。寺井〜鷲見コンビに魅力があるから聴くと言うよりも寺井〜鷲見コンビの魅力を引き出すために、それこそ寺井〜鷲見コンビに発酵作用を促すためにコンビのプレイを聴く。いかがでしょう。

投稿者:児玉勝利