生徒によるライブレポート

秋のフラナガニア・トリオ

秋の曲・・・、音楽好きのみんなのことじゃ、いろいろと思い浮かぶじゃろう。 有名なところで「小さい秋みぃつけた」じゃろ、「赤とんぼ」「十五夜お月さん」 じゃろ。懐かしいのぉ。季節にちなんだ曲というのは、古今東西、世界のあっちこ っちで、ずーっと歌われてるんじゃな。ほんに今宵の満月は格別じゃのう。

さぁて、そろそろ本題に入るとするかな。ジャズで演奏される曲にも、「秋」につ いて書かれたものはいろいろあるんじゃ。一番有名なのは、「枯葉(Autumn Leaves)」 じゃろうか。ナット・キング・コールが歌ってたのぉ。元々はシャンソンの曲じゃが、 フラナガン大師匠も何度も録音しとるのぉ。 偉大なるピアニスト、超有名な曲をどれだけスカッと 演奏するのか。ほんにまぁ、さすがに見事な演奏じゃ。 じぃは昔、生で聴いたことがあるんじゃぞ。 秋の曲はそれ以外にもあるわぃな。 フラナガニア・トリオの秋のレパートリーでは… 「Autumn In New York」「Autumn Nocturne」などが挙げられるのぉ。 また、それ以外のスタンダードでは「September In The Rain」「'Tis Autumn」 「September Song」といった曲もあるんじゃ。9月はロマンチックな響きがあるのぉ。

じぃのたわごとじゃ、堪忍じゃ。さぁて、なかなか話が進まんわい。ぐぉっほ。 今年のフラナガニア・トリオじゃが、待ちに待ったあの曲が演奏されたんじゃ。 ライブに行ったみんなはすぐにわかったじゃろう。そうじゃ、秋のレパートリー の中でも特別な存在。かの名曲「Maybe September」。これは記念すべきことじゃ。 21世紀に入ってからじゃと、2001年は、フラナガニア・トリオのアルバム 『Yours Truly,』の録音前じゃったからか、演奏は聴けなんだが、2002年9月20日、 2003年9月26日、そして今年2004年9月18日と、見事に3年連続の演奏じゃ。おぉ、 そんな歴史的な日の演奏が聴けたとは、良い冥土の土産じゃわい。向こうでばあ さんに自慢できるのぉ。

今年の『Maybe September』じゃが、それはもう見事な熱演じゃった。宗竹さんの アルコ、ほれあの、白い糸がビヨーンと張った弓のことじゃ、あれを使ってな、足 もとからびびっと響く感じがたまらんのぉ。ほれぼれするのぉ。河原さんも、これ がまたすごいんじゃ。ぐっといかずに、じわっ〜、じわっ〜と演奏するんじゃ。 あのアーサー・テイラーさんが踏んだ、世界遺産のじゅうたんの上でじゃぞ。 ドラマー冥利につきるわい。

何よりも、特筆すべきは寺井師匠じゃ。あの魔法のタッチで、そわっそわっと鍵盤 を弾くんじゃが、なんとも、こうにじみ出る「やわらか〜い」音。あれは一体なん なんじゃろうか。じぃは密かに「夢タッチ」と呼んでるんじゃがの。うぉっほ。ま た来年も楽しみじゃ。目が離せんのぉ。

さて、当日のフラナガニア・トリオがどんな演奏じゃったんか、じぃが得意とする 寺井師匠のモノマネで、ジャズ講座風に解説してみるとするか。次のページは、寺 井師匠の声を想像して読むんじゃぞ。

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バッパーじぃ解説!9月のフラナガニア・トリオ

番外編【2004年9月18日・24日】フラナガニア・トリオの足跡を辿る

えー、少し遅れている方もいらっしゃるようですが、定刻になりましたので、 そろそろ始めたいと思います。あっ、珠ちゃん、ちょっと電気暗くして。 さて7月、8月のフラナガニア・トリオでは、夏のレパートリー、そしてビリー ・ホリディの愛唱曲を取りあげたわけですが、この9月のライブでも、いろいろ な工夫と仕掛けがなされています。時間の都合もありますので、特に印象に残 った演奏に絞って解説したいと思います。

1.Walkin’ウォーキン

まず1曲目は「Walkin'」です。リチャード・カーペンターの曲でA8,B8,C4,B8,C4 という構成です。キーはF△です。アドリブはFのブルースです。これ、実は今回 初演なんですね、私の知る限り。それで、初演となりますと、どうなるんかな、 どんな構成でくるんかなって、ワクワクするんですね。まぁ、それが見事に期待 を裏切らないすごい演奏になってるんですが。

さて構成ですが、あっ構成表出してください。イントロはありません。いきなり テーマに入りますが、Aはタッグ(Tag)みたいな雰囲気もあります。ドラムとベー スが等間隔のリズムを刻みますね、ここは息がぴったりです。続いてテーマのB とCを2回繰り返すんですが、Bの2小節目や4小節目といったところでのピアノの右 手の返しのフレーズに注目してみてください。そして付け足しのようなCの部分で すが、2回ほどピアノの左手に合わせた決めが入ります。アドリブに入りますと、 ここからはFのブルースになります。ピアノ・ソロは全部で11コーラスです。今回 倍ノリは仕掛けません。これ、なぜでしょうか?バッパーやったら、ベースとドラ ムにプレッシャーをかけて倍ノリ、そして時には4倍ノリを仕掛けることも結構あ るんですが、それをやらないんですね。なんでかわかりますか?

実はね、これ、曲順なんですよ。9月18日の1セット目1曲目でしょ。こんなとき、 フラナガンやったら、たとえば「The Con Man」なんかで、むちゃくちゃアップ・ テンポのズバッとした曲を1曲目にもってくることもありますがね、フラナガニア ・トリオの特徴は「青白い炎」なんですね。そやから、じわっじわっと1曲目は抑 え気味にもっていくんです。1セット全体の構成を狙ってるんですね。まっ、いき なりズバズバッといくこともありますが、今回は押さえ気味のパターンですね。

それでね、ピアノ・ソロですが、ちゃんとお聴きになれば判るかと思いますが、例 えば6コーラス目の頭は、フレーズを高音からもってくるでしょ、で、次の7コーラ ス目の頭は低音から上へフレーズをもっていく。これね、演奏やってるほうはね、 ちゃんと覚えてるんですよ。「あれ、さっき何をやったんかな…」、これやったら あかんのですよ。ちゃんと計算してるんです。

ピアノ・ソロのあとはベースに回します。ベース・ソロは全部で5コーラスですね、 この5コーラス目のとき、ベースは「えっ、まだすんの?」って顔しますが、「まだ もう1回いけ」とピアノが合図を出したんですね。こういう合図もちゃんと見とか なあきませんよ。そのあと、ピアノ1コーラス、ドラム1コーラス、そしてピアノと ドラムで4バース・チェンジを2コーラスします。そのあとですが、ちょっと凝った 構成なんです。すぐテーマに戻らず、ピアノが1コーラスのリフをします。これね 、すごく特徴のある音を繰り返しますね。すごくインパクトがある。ここで、この 曲全体をギュッと締めてるんですね。そしてラスト・テーマ。このテーマへの入り 方、ピアノは非常にソフト・タッチでやわらかく入ります。これね、簡単そうに聴 こえますが、なかなかできませんよ。ラスト・テーマはB,C,B,Cと演奏して、最後に Aの部分を演奏してスカッと終わります。もう見事ですね。7分10秒の演奏ですが、そ の長さをまったく感じさせません。ほんと、見事な演奏です。

2.Maybe Septemberメイビー・セプテンバー

次はパーシー・フェイス作曲、元々は映画音楽でした。A16,B16の32小節とラテン でのC16小節が加わって、合計48小節の変則です。キーはAmです。譜面はまた聴くと きに写しますので、先に構成表をみせてください。

イントロですが、例の決まったフレーズを8小節、このときベースはアルコ(弓)、 ドラムはマレットでピアノを重厚に、しかし押さえ気味に盛り上げます。続いて テーマですが、すばやくベースは指に、ドラムはスティックに持ちかえて入りま す。このテーマなんですが、ピアノのいろんなオブリが聴けるんです。例えば3,4 や7,8や11,12や15,16小節目といったところ、ツー・ファイブでしかもオルタード も入れられるし、ピアノを勉強してる生徒は、こういう右手のオブリを分析したら 面白いかもしれません。Cでラテンのリズムに変わりますが、ピアノはゆったりと 唄い上げます。せかせかしません。それでね、40小節目の右手のフレーズですが、 下から上へズバッと決めるところがあるんですが、あのフレーズの一息感がすごい ですね。もう、溜め息がでますね。

そしてアドリブですが、AとBの部分をピアノがソロを取ります。きれいですね。フ レーズがふわっと浮かび上がるみたいですね。でCでラテンのテーマに戻るんです が、ここね、31と32小節目に注目です。もうこのラテンにいく2小節前から、次ラ テンですよ、と匂わしてますね。これ、すごく大切なところですね。突然ラテンに いったらあきませんよ、ちゃんと予告するんですね、リズムとフレーズで。そして ラテンのテーマへいって、エンディングはイントロと同じ8小節をベースのアルコ、 ドラムのマレットとピアノで厚い音色を作り出して、一気にA△で終わります。すご く明るい響きで終わります。こういったところ、非常にフラナガニア・トリオらし い特徴がでていますね。マイナーの曲は絶対に辛気臭くやらないんですね。印象的 な音ですね。(演奏を聴いてから)

あの、****くん、これね、こういうとき構成表をちゃんと写しておくんですよ。 せっかく鉛筆持ってきてるのに、ボーっと聴いてたらあかん。今わからんでも、後 で見たらわかるようになるから、とりあえず写しておくように。

さて、今のピアノ・ソロ、本当に見事です。そしてベースですが、このイントロ の部分だけですけど、アルコ(弓)を使って演奏するのは、ベーシストの中でも珍し いんです。今までの講座で取りあげたベースでは、ポール・チェンバースがリーダ ー作で弓を使っていましたが、ああいった技をコピーするベースが非常に少なくな りました。

さて、余談になりますが、講座が始まる前にチラッと言ってましたでしょ。2回の ライブが「つい」になってるって。どういうことか判りましたか?後藤先生はお判り になられた?はい、そうですね。他の生徒はどうですか?

時間がないんでね、もうここで謎ときをしますが、実はね、1stセットの1曲目と2nd セットの1曲目が、両日ともこういうことなんです。「Walkin’」と「Strollin’」 でしょ、「The Tadd Walk」と「Walkin' My Baby Back Home」。歩くことにちなん でますね。私の靴は、つい一週間前に新しくしたんですが、別にこのためにサラを 買うたんではないんですがね(会場笑)。こういう選曲の工夫にも注目されると、 また違った楽しみ方もあるかもしれません。

音楽の秋、食欲の秋、スポーツの秋ということで、みなさんもこの秋はウォーキング、 ぜひやってみてください。ご清聴ありがとうございました。

…バッパーじぃのモノマネ、どうじゃったかな?まったく、目が離せん、すごいライブ じゃったわぃ。次のフラナガニア・トリオも楽しみじゃのぅ。<完>

投稿者バッパーじぃ