(本稿の難度はかなり高いので
ゆっくりと時間をかけて読んでください。
瑣末【さまつ】なことはさておき、
主旨をつかんでくだされば結構です。)



「積み上げ的な技術革新」は、
品質向上のための連続的な改良を特徴とします。

そして、その効果は「時間上、
投入−産出表において
製品やサービスの既存の配列に関する
係数の主要な変化によって反映される
生産性の着実な成長に現れる」。


一方、
「根本的な技術革新」は、
既存の技術軌道の延長線上には出現しないような
不連続な事件であり、
「投入−産出表の新しい列や行の追加を絶えず要求する」。


今日、技術革新は、
マーケティングとともに企業が経営戦略を検討する際の重要な要素の1つです。

しかし、「技術革新」という概念は
その内容・動態を曖昧にしたまま用いられてきました。


本稿は、
技術革新のプロセスを実験の動態的なプロセスと捉えることにより、
従来の「積み上げ的な技術革新」と
「根本的な技術革新」との対比をし、
また、日本企業の研究開発のスタイルとしてしばしば見受けられる
基礎研究の軽視と応用開発への特化という性格、を
実験プロセスという
より大きな枠組みから再検討するものです。


なお、本稿では、
装置の工夫的使用を通じてのみ安定的な状態へと収束させ、
再現も可能であるような
「現象を創造する実験作業プロセス」として
技術革新のプロセスを捉えており、
市場や社会のニーズによる実験作業プロセスの変容を
考察の対象外としています。


これは、目論見通りの実験結果が出るまで、
探索的な実験作業に
粘り強く専念することを想定するためです。
(実験作業中に実験の当初の目的を市場・社会の要望によって頻繁に変更すれば
現場での混乱を引き起こしてしまうからです。)


この実験作業空間は、企業内では
「前−マーケティング過程」と見なし得ます。

実験作業それ自体の始まりは、
市場や社会のニーズ
あるいは理論物理学者の個人的な興味・関心、
そして実験家が自ら製作した装置を通じて自然がどう振る舞うのか?に対する
単なる好奇心、等々によって引き起こされるでしょうが、
その起源は問わないこととします。

これは、一度実験作業に突入したならば、
市場や社会のニーズに左右されることなく
実験作業に没頭することが可能な、
前−マーケティング的実験空間を
企業内部で醸成・維持することが、
かえってマーケティング過程を阻害せず
上手く機能させ、
競争優位の確保につながると考えるためです。


実験作業を手がける
中央研究所が廃止される傾向にある今日、
実験作業空間の消滅は
「マーケティング過程」からの
市場・社会の要望に迅速に対応することを可能にする、
技術基盤の喪失を意味します。

そのような企業体は、
自ら革新の条件を欠く企業体であると言わざるを得ません。