テレビ広告、新聞広告、パンフレット、PRビデオ、
Web site、工場長のスピーチ等、多様なコミュニケーション手段を用い、
顧客や投資家などを始めとする利害関係者に
自社を好きになってもらいたいと企業は願っている。

工場見学の実施によって好意的な評判を獲得したり、
好ましい企業イメージを構築したりすることで、
利害関係者と良い関係を築きたい。


商品が悪ければいくら上手なコミュニケーション施策を投下しても
商品の魅力のなさが足を引っ張る。
片や、いくら商品が良くてもコミュニケーション施策が下手だと
商品の魅力を消費者に伝えられないため、
商品も悪いのだと理解されてしまう。


当該業界に身を置かない一般の工場見学者は
当該分野の話を初めて聞くということを
工場見学に関与するスタッフを始めとして
企業のコミュニケーション活動の担当者は
念頭に置かなければならない。

一方、納入業者や国内外の同業他社の視察を受け入れた時には
当該分野の理論と専門用語を駆使して説明しても
聞き手の理解に支障を来たす可能性は低い。


自動車工場で自動車のブレーキはパスカルの原理を応用して
強い制動力を得ているという説明を受けても、
パスカルの原理【注】を知らなかったり忘れたりしていれば理解できない。





【注】パスカルの原理:
密閉された流体の一部に加えられた圧力は、
それと等しい大きさで流体の全ての方向に伝わる。

フランスの数学・物理・哲学者であるパスカルによって発見された。






パスカルの原理について習った中学生は即時に理解できるこの説明を
この原理を知らない人、あるいは忘れた人は理解できない。
つまり年齢が問題なのではなく、聞き手の知識レベル如何(いかん)なのだ。
工場見学に携わるスタッフ、とりわけ技術者は
聞き手のレベルに応じた説明をするよう心掛けたい。

工場見学後「ためになった」「勉強になった」「参考になった」という感想を
大人が漏らしたのであれば文字通りの意味として
工場見学の実施企業は受け取っても良いのかもしれないが、
同じコメントを小中学生が出した場合、その真偽は謎に包まれている。

特に「参考になった」というコメントは
どこがどう参考になったのか面談して聞いてみたいくらいだ。


大人が出したものであれ子供が出したものであれ、
上記のコメントは気休め程度にしかならないが「分かりやすかった」という感想は
工場見学に関与するスタッフを大いに勇気付ける。

このように書いたからといって、本稿を読んでいる小中学校の先生は
児童、生徒に工場見学の御礼の手紙を書かせる折、
「分かりやすかった」と書くよう指導することは回避していただきたい。
というのも、当該校にとっての次年度以降、
あるいは当該企業における次回以降の工場見学実施に際しての
改善の余地を失ってしまいかねないからである。

企業は見学者の生の声を欲しているのだ。
そして自社や自社製品についてもっと知って欲しいと願っている。

利害関係者の当該企業に対する理解を促進する広報の機会として
工場見学を利用したいのであれば、
当該工場で製造している製品や当該企業について
利害関係者に分かり易く伝えることがとても大切だ。