かまくらとんねる


 ケントが住んでいる国は、一年中海でおよげるくらいあたたかいところでした。けれどもその日の夜は、ふとんを二枚ほど重ねなければ、さむくてねることができませんでした。
 朝になってまどの外を見ると、とてもまぶしくて、あたりいちめんがまっ白になっていました。おどろいて外にとびだしてみれば、家も、にわも、でんしんばしらも、シーツをかぶせたように雪でおおわれて、なんだかひっそりとしていました。
 ケントは、はじめて見る雪がうれしくて、パジャマのままかけまわりました。またいつものように、たいようがてりつけるので、手足がひんやりして気もちよかったのです。
「そうだ。かまくらをつくってみよう」
 かまくらとは雪で作ったほらあなのような家のことです。
 ケントは手のひらで雪を丸め、地面の上をコロコロところがしました。一周するたびに雪がくっついて大きくなっていきます。
 ケントの身長と同じぐらいの大きさにすると、シャベルをもってきて、あなをほりました。
 しばらくほっていると、雪のかべに小さいあながあいて、黄色い光が見えてきました。
「なんだろう」
 ケントは光のあなをひろげて、雪玉のおくへ入ってしまいました。
 そこは細くて長い雪のとんねるになっていました。ケントは赤ちゃんがハイハイするようにはいつくばって、進んでいきました。
 すると、前から男の子が同じようにハイハイでやってきました。男の子はケントに気づき、大きな目をパチパチさせていいました。
「きみはだれ?」
「ぼく、ケント。きみは?」
「太一っていうんだ。どこからきたの」
 ケントはあたたかい国に住んでいて、たまたまふった雪でかまくらをつくっていたら、ここへきてしまったといいました。
「ぼくの住んでいるところはね、たくさん雪がふるところなんだ。きのうはすごくいっぱいふって、やねの上までつもったんだよ。だからカーテンをあけると、雪でなにも見えなくなってた。しょうがないから、二階のまどから雪をかきわけて外に出てきたってわけ」
「ここにはよく来るの?」
「うん。ここは子どもだけのひみつの基地なんだ。あんないするよ」
 太一は左のかべにあなをあけて、あたらしいとんねるをつくってしまいました。
「といっても、ここはめいろみたいで、ぼくにもよくわからないんだけどね。運がよければ雪の女王にあえるよ」
「ええ! あったことあるの?」
「あるよ。なんども。雪の女王はさみしがりやで、ふらせてはいけない場所にも雪をふらせて、子どもを雪の国にさそいこむんだ」
「それでぼくの住んでいるところにも、雪がふったんだね」
 ケントと太一はすっかりなかよしになって、雪のとんねるをたんけんしました。
「ああ。もう少しで出口にでるみたいだ」
 太一はあなをほるスピードをはやくしました。もしかしたら雪の女王の国かもしれないと、ケントはわくわくしました。
 ところが、出口のあながあくと、雪といっしょに北風がふきこんできました。
「うわぁ。死んじゃうよ。ひきかえそう」
 ケントはもどろうとしました。
「まって」
 太一はケントのうでをつかみました。
「あそこに誰かいるよ」
「うそだよ。こんなにさむいところにいたら、死んじゃうのに」
 ケントは手で風をかけるようにして、あなの外を見てみました。太一のいうとおり、ぶあついジャンバーをきた男の人がたおれています。
「どうしよう」
「たすけなくちゃ」
 太一はふぶきのなかへとびだしました。
「まって! ぼくも!」
 ケントもとんねるの外へ出ました。パジャマ一枚なので、たちまちにしてこおってしまいそうでした。けれども、男の人をたすけなくちゃいけないのだと、ケントはさむさをこらえて太一といっしょに、男の人をとんねるにひきずりこみました。
「死んでいるのかな」
「わかんない。うちに運ぼう」
 太一が男の人のうでをひっぱって、ケントが足をおしました。いっしょうけんめいだったので、さむさをわすれ、あせまでながれてきました。
 太一の家につくとおばさんが119番にでんわをかけて、きゅうきゅうしゃをよびました。
 家の人はみんなパニックでどうしてケントやしらない男の人がいるのか、気にしていませんでした。かけつけたおじさんたちが「まだ生きてるぞ」というので、きっと助かったのだと思います。
 ケントはおばさんにばれないうちにかえることにしました。
「これ、きていくといいよ」
 太一はこん色のコートをかしてくれました。
「ありがとう。またあえるといいね」
「ぜったい、あおうね」
 ケントは手をふって、まどからつづく雪のとんねるをもどっていきました。
 進んでいくうち、雪がとけてきて、とんねるがぐらぐらとゆれました。そして、とうとうとんねるはくずれ、ケントはまっさかさまにすべりおちていきました。プールのすべり台のようでしたが、あまりにもはやかったので、気をうしなってしまいました。

 気がつくと、ケントは見おぼえのある場所にいました。自分のうちのにわです。このあたりにかまくらをつくったはずなのですが、あんなにあった雪が、全部とけてなくなっています。
「なにしているの。学校におくれるわよ」
 と、お母さんがまどからよんでいます。
 ケントはゆめだったのかと、がっくりしました。けど、うつむくと、太一にかしてもらったコートをきているではないですか! ケントはほんとうに雪のめいろをたんけんしたのだと、よろこびました。
 雪がとけてしまったから、雪の女王のまほうもとけてしまったのでしょう。太一の国へつづくとんねるはなくなってしまいました。
「また、雪がふらないかなぁ。それでなくちゃ、コートをかえせないよ」
 ケントはその日がくるまで、こん色のコートを大事にしまっておくことにしました。


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