冷凍ゾンビ


 精神安定剤や睡眠薬などのクスリを乱用する医者と同様、科学者が人の道をそれた研究をするのは、魅惑にすぐ手が届く場所にいるからであろう。彼らは元々非道ではない。環境がまずかっただけなのだ。
 ただ――この男の場合、環境と趣味が合致した特殊な例かもしれない。

 この男の趣味といったら女性の裸体を眺めることだった。女の子をホテルへ連れ込んでも、服を脱がせると、あとはひたすらに見ているだけなのだ。気色悪くなった女性は十分とせずに帰っていく。

 フィギュア、野球選手のカード、牛乳瓶のふた、トイレットペーパーのラベル――収集癖は男性に多いという。
 男は女性の裸体を集めたいと思った。だが、人間は物と違ってケースに収まってはくれない。食べ物を要求すれば排泄もするし、外へ出たいといえば物を買えともいう。どんなに努力しても老化は避けられず、美は永遠ではない。死体なら欲求をいわないから楽でいいのだが品質劣化は生体よりも著しい。

 そこで、だ。男は死体を美しく保存する方法を研究しはじめたのだ。何度も実験と研究を重ね、特殊な液体で冷凍保存できる装置を完成させた。
 美貌を兼ね備えた男は次々と美しい女性を誘惑し、なるだけ傷が付かぬよう枕を押しつけて窒息死させた。手に入れた裸体はむだ毛を処理しているかどうか点検し、透明なケースに入れ、取り出さなくてもいつでも見られるようにした。
 こうして男は5年の間に70体の裸体を集めた。人に自慢はできないが、男は満足していた。

 そんなある日、大きな地震が襲った。縦に長く、安定の悪いガラスケースは将棋倒しになり、中に入っていた大切な裸体は粉々になったケースの破片で傷が付いた。男は絶望と同時に恐怖に襲われた。
 なんと、死体が動き出したのである。1体だけではない。10体ほどの死体が顔を上げ、手を床につき、ある者は歩き出した。
 男は腰が抜けてその場から逃げることができなかった。魂を吹き込まれたように女たちは表情を取り戻し、憎悪の固まりで男に向かってくる。復讐をしに来たのだ、男はそう思った。
 男の真後ろにいた女はケースの破片をつかむと、男の首に突き刺した。男はもうろうとした意識の中、女たちの表情が安堵に変わっていく錯覚がしていた……。

 このゾンビ事件は世界中を騒がせた。だが、一週間後には男の後輩によって謎が解明された。
 息を吹き返した女は仮死状態だったのである。つまり、気を失っていただけで死んではいなかった。あの男はとんでもない発明をしたのだ。死体を品質よく保存するにとどまらず、何年も仮死状態を保てる装置をつくってしまった。そうとも知らず、男は自分の研究成果を認識するまでもなく死んでいったのだった。

 後輩はその事実を公にはせず、自分の研究結果として発表した。
 ――彼は元々非道ではない。環境がまずかっただけなのだ。  


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(C) Sachiyo Kawana