占い師の心得


 そろそろ廃業しようかと思っていた矢先のことだった。
 少女向けの占い雑誌に「よく当たる」として紹介されたところ、若い女性を中心に客が増えた。宣伝効果は抜群だったのだが、当初は考えもしない問題が起こった。このままではやめざるを得ない、と占い師は頭を悩ませた。そしてひとつの方法を思いついたのである。
 創業から二十年、外装も内装もそのままほったらかしにしておいた『占いの館』は、記者も写真を載せなかったくらい、すたれている。これを機に、改装することを決めた。
 外観がきれいになれば、雑誌を読んでいない客も呼び込めるようになった。きわめて順調な客足だった。

 改装オープンから十日目のことである。
 客は女性同士やカップルという二人組が、圧倒的に多かったのだが、その少年はひとりでやってきた。
 占い師ではなくとも、何かに脅え、痩せ衰えているのは見てとれた。目や口に付いた痣が黄色くなりかかっているので、暴行を受けてから日にちが経っている様子だった。
 少年は「オレはこれからどこへ行けば安心して暮らせるのか」と尋ねてきた。逃げるのに疲れ果て、藁をもつかみたい、といったかんじだった。
 ここは相談所ではない。理由はどうであれ、いわれたことを占ってやるだけだ。占い師はタロットカードを机に一枚一枚並べた。しかし、どうにも集中できなかった。少年の念が強すぎるのだ。不安や後悔、憎悪といった黒い部分が押し寄せる。

 ――少年は殴り合いの喧嘩をしていた。一方的にやられていたというわけではないらしい。五分の戦いであったがそのうち組み伏せられ、少年の形勢は不利になった。相手は少年が反撃する隙を与えず、顔面にパンチを浴びせた。
 少年は勝てる方法をひとつだけ思いついていた。深く考えず腰の辺りからナイフを抜き取ると、相手の腹に差し込んだ……。

 はっとなって少年を見ると、脅えにも似た表情でこちらを見ていた。占い師の手が止まったままなので、不安になったようだ。
「オレ、どうなるの?」
「キミの行くべきところがわかったよ」
「どこ?」
「警察だ」
「警察? どういうことなんだよ。オレは捕まるのか? そうなら、捕まらずにすむ場所を占ってくれよ」
「駄目だ。キミは自分で警察にいかなくちゃならない。人を刺したんだからね」
「どうしてそれを……お前、オレの過去を勝手に見たな!」
 少年はベルトにひっかけてあったナイフを抜いて、しっかりと握りしめた。
「こうなったら、ひとり殺すもふたり殺すも同じだ!」
 少年は立ち上がると、首をめがけてナイフを振り下ろした。占い師はとっさに頭を抱えてうずくまった。頭上でガツンと物音がしたとき、占い師はその必要がなかったことに気がついた。

 見上げると、少年がガラスに手を貼りつけてこちらを見ていた。
「なんだよこれ?」
 少年は唖然としている。
 改装したとき、客と自分の間に強化ガラスで仕切りをつくったのだった。当たりすぎて襲われるなんて冗談じゃない。
 商売繁盛はいいけれど、最近の若者はキレやすくて……困ったものだ。


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(C) Sachiyo Kawana