脅迫両成敗


 妻にはしおらしさ、愛人には優雅さを求めるのは男の性である。私が彼女に惚れたのは、妻にはない知性と美貌としたたかさを持ち合わせていたからであった。
 ジャーナリストの特性なのか、時として刺々しく、はっきりものをいう態度も好きだった。しかし、どうして私と関係を持ったのか、という質問には「さぁ」とはにかんではぐらかすばかりだった。そんなところも計算されたセリフのようで、魅惑的だった。

 彼女と落ち合う場所はいつもラブホテルだった。私達はタレントではない。堂々と出入りしても案外誰にも気づかないのではないかと思っていた。だからホテルから出てきた瞬間、フラッシュが光っても私達を撮っているとは思わなかったのだ。

 黙って写真を撮った不届きものが近寄った。
「この写真、買ってもらえないですかね」
「はぁ?」
 精一杯の不機嫌で答える。
「あなたの奥さんに頼まれて浮気調査をしていたんですよ。奥さんにはいくらかつぎ込んでもらってますけど、あなたならいくら払ってくれますか?」

 私は動揺して言葉がでなかった。妻に気づかれていたとは迂闊だった。それにしてもいったいどこでこの男と知り合ったのか。興信所の人間ならこういうことはしないはずだ。
 男の顔を見据える。余裕の表情だ。私がネガを買うと踏んでいる。

 折れて「いくらだ」と、口を開こうとしたとき、
「いくらなの?」
 彼女は脅迫をものともせず、ショルダーに手を突っ込んだ。
「おいおい。そんな端金でケリをつけようっていうのか? この人の奥さんは二〇万出したぜ。まさか、何十万も持ち歩いているってわけじゃないだろう」
「じゃ、いくらならいいの」
「三〇万。奥さんへの口止めは別料金だ」

 私は妻と離婚する気はない。それくらいは仕方ないだろう。
「コレが脅迫だとわかっていってるのかしら」
 彼女にしては珍しくしかみついていた。
「俺はビジネスと割り切っているが、世間ではそういうようだな」
「そう」と彼女はバッグを探った。
「それじゃ、コレとカメラを交換しましょう」
 彼女が取り出したのは録音ボタンが押されたテープレコーダーだった。
「ちっ」
 男は素直にテープとカメラを交換して立ち去った。

「どっちにしたって同じことだ。あのテープが妻の元に渡れば……」
「平気よ。あのテープレコーダー壊れているんだもの」


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(C) Sachiyo Kawana