仲間に入れて

 高校の文化祭で久しぶりに中学校の同級生と再会した。
 中学生時代の思い出話しで盛り上がり、その学び舎である旧校舎が来年度には取り壊されるということもあって、「記念撮影でもしようか」と、中学校に行ってみることになった。

 到着するころにはあたりは暗くなっていて、誰かがいる気配はまったくしなかった。三年間通った馴染みある場所なのに、なぜだか隣にいる友人の手を握りしめたくなるくらい静けさが怖かった。

「怒られるといけないから早く撮っちゃおうよ」
 N美はそういってスマホを取り出した。
「このへんでいいかな」
 わたしたちは顔を寄せ合って自撮りした。
「どんなかんじ?」
 わたしが聞くと、N美は画面を見せてくれた。
「なんかフラッシュで顔テカりすぎ」
 S子がそういって笑うと、Y代は画面を指さした。

「いや、そんなことより、これ」

「窓になんか映ってる?」
「ちょっと、N美、アプリ仕込んだでしょ」
 責め立てられたN美はそんなわけないじゃんと否定する。

「じゃあ、Wちゃんのスマホで撮ろうよ」
 というので、わたしは自分のスマホを取り出して同じように撮影した。
 画面を見せると「ちょっと、普通すぎ」といわれ、
「なんでがっかりされるのよ」とやり返す。

「ねぇ、今度はわたし。自撮り棒あるし」
 S子もスマホを取り出して、長い棒の先にスマホを取り付けて撮影した。そして、Y代は人の顔が血みどろになるアプリで撮影したり、写真を交換したり、一通り撮影会が終わったときだ。

 一瞬、なにかが通りかかったようにシンと静まりかえった。

「……そろそろ帰ろうよ」
 N美がいうと、わたしたちは同意した。スマホをバッグにしまっていると、


『ねぇ、わたし、まだ撮ってないよ……』


 小さな声がどこかから聞こえてきた。
 わたしたちは思わず顔を見合わせた。
「いやだ、誰かいるの」
「どこか遠くから聞こえてきてるんじゃない?」
「早く帰ろ」
 わたしたちは誰にも後れを取りたくなくて、横一列になってかけだしていた。

 その晩のことだ。S子からSNSでメッセージが届いた。自分が撮った写真を拡大してみんなの瞳に写っているものをよく確認してみてほしいとあった。
 わたしはいわれたとおり、S子が自撮り棒で撮影した写真を拡大してみた。

 すると、みんなの黒い瞳には肩まで髪が伸びたセーラー服姿の少女が写っていた。母校の制服を着た少女だ。デザインは何十年と変わらないと聞いている。
 しかし、少女の顔はよくわからない。なぜなら、少女は古めかしいカメラを右目に当て、左目をつむってシャッターをきっていたからだった。

「この子って……」

 S子もそれに気がついたんじゃないだろうか。
 当時のクラスメイトのほとんどがシカトしていたU里に似ていた。彼女が写真が趣味だとも聞いたことがないので、こんなカメラをもっているわけもない。
 第一、彼女は生きている。わたしと同じ高校に通っているのだ。

 もっと古い時代、この学校に通っていた生徒の霊だろうとは思う。
 それだけでも充分怖いのだけど。

 でも、わたしのちょっとした罪悪感がU里を彷彿させたのだった。

ランプ

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(C) Sachiyo Wawana