どこから頭を突っ込んだの、りんちゃん?





寝すぎです(笑)  金曜終電のサラリーマンの如し。 邪見様は、驚愕のあまり逃走したらしいです。 ちなみにどこが「抱擁」かと申しますれば、「腕」ら辺かなぁと……。 下にSSもどきがあります









桜舞う中、無防備にまどろむは幼子と妖怪
恐れるものは何もない
ただ風と柔らかな花弁が頬を撫ぜるだけ
風も花弁も陽光も、彼等の眠りを等しく守り
同じ体温が人と妖怪を支配する……



りんは、つかのまの休息をとる殺生丸にそっと近づいた。
妖(あやかし)は桜の大樹に寄りかかり、静かに目を閉じている。

ねてるのかな
それともいつもみたいに本当は起きてるのかな

反応が無いのを見てとって、りんは思い切って体温すら感じるほど近くに膝を進めてみた。
殺生丸の頬に落ちた長い睫の細やかな影は、先程から微動だにしない。
金色の瞳を覆うその瞼は柔らかく閉じられ、
はらはらと睫の先を薄紅の花弁がかすめても、いっこうに構う様子すら無かった。

ねてるんだ、せっしょうまるさま……
りんがこんなに近づいても、なんにも言わないんだもん
いつもだったら「近づくな」とか言われちゃうもんね

そっと下から見たり横顔を眺めてみたりしたけれど、動くのは風に揺れる銀の髪だけ。
めずらしいよね、せっしょうまるさまがほんとに寝ちゃったのって
自分の膝の上に頬杖ついて、りんはじいっとこの大妖を見つめていた。
桜の花弁は、途切れる事なく舞い落ちている。
ただ静かな春の陽光だけが、二人の上にふりそそいでいた。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * *

春の太陽は、りんをそのままにはしておかない。
ぽわぽわとした陽気は眠気を誘う。
こうして黙っていると、次第に瞼が下がってくるのに抗いきれない。
むむむ、と頑張っていたりんだが、とうとう居眠りを始めてしまった。

りんは、こくりこくりと船をこぐ。
頭に結わえた黒髪のひとふさが、それに合わせてゆらゆら動いている。
小さな黄色の蝶がりんに躊躇いがちに近寄ったかと思うと、
またひらりと身をかわして何処かへ飛んで行った。
陽射しは、大地を暖かく照らしている。
時折聞こえるのは、蜜を運ぶ蜂の微かな羽音だけだ。

そのうち、りんはそばに寄りかかるのに丁度良い何かがあるのを感じたものか、
無意識のうちに全身をそれにあずけた。
力を抜くと、うたた寝だった眠りはいっそう深くなる。
寄りかかったもののそばにあるふわふわと手触りの良いものを抱き込むと、
他愛のない夢を見ながらそのまま本当に寝てしまった。

頬に暖かい光が当たっている。
じんわりと体の奥から温かくなって、りんは早くも小さな寝息をたて始めている。
一方、寄りかかられたほうの殺生丸は、春眠に囚われたものか目を覚ます様子はない。
やがてりんの重みに押されるように、少しずつ体を傾いでいたかと思うと、
音もなくりんと共に寝倒れてしまった。
萌え始めた柔らかな草の上にまどろむ二人の上を、花弁と風がそっと吹き過ぎてゆく。
彼等が目を覚ますには、もうしばらくかかるだろう。


恐れるものは何もない
ただ風と柔らかな花弁が頬を撫ぜるだけ
風も花弁も陽光も、彼等の眠りを等しく守り
同じ体温が人と妖怪を支配する……

< 終 >



2005.06.16



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