先生、成長マシュラの服は1枚しかないようです






18歳のマシュラを想像して描いてみました。 2006年は放送終了から6年というわけで、計算すればマシュラもこれくらいの歳になったかな、っと。 珍しくマシュラが本のようなモノを持っておりまして、これはコミック版での18歳マシュラを想像して描いたのでした。 下のほうにこの想像を元にした小説もどきがありますので、宜しければどうぞv





























 「マシュランボー、いるか?」
 切り取ったような青空の見える窓枠の外から、マシュラはこの家の主の名を呼びながら中を覗き込んだ。 しんと暗色に沈んだ書斎からは、なんの応えもない。
 「しょうがねぇなぁ」
 ぶつくさ言いつつも身軽に窓枠を『乗り越え』て家の中に入ると、勝手知ったるとばかりにこの少年は、いや青年は手近な椅子に腰をおろした。 年は十八。 図体ばかり大きくなってもまだまだ子供ですねぇ、とは或る親しい者の評である。 確かに留守宅の『窓』から侵入するあたり、やんちゃ坊主が抜け切っていないらしい。 虎体狼腰ともいうべき鍛えられた体が、今は書斎の中で異彩を放っている。 書斎は薄暗く、本独特のしんとしたにおいが沈殿するばかり。 手持ち無沙汰になったマシュラは所在無く書棚へ手を伸ばした。

 あの戦いから六年。 世界は少しづつ変わっている。 大地は緑を増し、マトリクサーと人間との融和も少しづつ進んでいる。 共存、それは気が遠くなるような努力の連続かもしれない。 自分とは異質な存在を理解し思いやり、共に生きる道は平坦であるとはいえないかもしれなかった。 けれどマシュラは信じている。 あのひとの笑顔を見ればそう思わずにはいられない。

 「不埒者、何をしている」
 突然冷ややかな声をかけられて、マシュラは危うく本を取り落としそうになった。 振り返れば紫色の髪をした背の高い男が、胡散臭そうに自分を見ている。
 「不埒者とはご挨拶だなぁ、マシュランボー」
 「窓から入るような奴は客ではない」
 取り澄ました顔であしらうと、切り口上に「何の用だ」と言った。
 「そうそう、ヤクモがこの本読み終わったからお前に返しておいてくれ、ってさ」
 冷たい言い草にめげる様子もなく、マシュラは古ぼけた鞄から一冊の本を取り出した。 マシュランボーはマトリクサーと人間について研究しており、多くの書籍を持っている。 ヤクモはたびたびマシュランボーから蔵書を借りては、マトリクサーと人間の共存について、彼女なりに考え続けていたのだ。
 「また新しく本が入ったら貸してくれって言ってたぞ。 明後日には川むこうの共存村から帰ってくるんだよな」
 嬉しそうな顔で、マシュラは窓の外に広がる青空を眺めた。 ヤクモはここ数日出かけている。 「俺もついて行く」と言ったのだが、数日で終わる仕事ですからとにっこり微笑まれると、マシュラにはぐうの音も出ない。 マシュラたちが住む村の近郊は、それほどに平和な状態を築き上げていた。

 マシュランボーはそんなマシュラを横目で見ていたが、やがて珍しくいたずらっ子のような表情を見せた。 マシュラのヤクモへの気持ちは、はたから見ていても分かりすぎるほどに分かる。
 「貴様、まだヤクモに何も言っていないのか。 存外小心者らしいな」
 音がするかと思えるような勢いで振り返ったマシュラは、誰が見ても分かる紅潮した頬で立ち上がった。
 「なななな、何言ってんだ。 お前には関係ないの! それに、今は大変な時期なんだ」
 「?」
 「ほら、その本にも書いてただろ?」
 先ほど返した本をマシュラは指差して、大仰な身振りで椅子に腰をかけた。 照れ隠しも含まれていたらしく、腰をかけると少し落ち着いたものか頬杖をついて話し始めた。
 「まだまだ人間とマトリクサーが憎みあってるところもたくさんあるんだよな。 どうやったら仲良くなれるんだろうなぁ」
 頬杖ついた顔で語るその表情は真剣だ。
 「お前、この本を読んだのか?」
 「ああ、本ならヤクモが読み終わってからいつも読ませてもらってるぜ。 だ〜か〜ら、おめーもそんな下らねぇこと言ってないでちゃんと研究しろよな」
 マシュランボーは目をしばたかせた。 山猿マシュラにはとうてい読めぬような書物だと思っていたが……。

 呆気にとられていたマシュランボーだが、手渡された本を書棚にしまうと、マシュラを横目で睨んでみせた。
 「お前に言われるまでも無い。 さあ、帰った帰った」
 確かにマトリクサーと人間の共存については解決していない課題も多い。 考えなければならぬ事は山積していた。 だがそれよりも今、マシュランボーはあのマシュラが書物を読んでいたという事にじつは内心ひどく感心していた。
 (ヤクモに感化されたか……。 この地球も人々も変わったが、事によると一番変わったのは奴かも知れん)
 ふっ、と我知らずマシュランボーの表情に笑みがよぎった。 マシュラはちょっと驚いたような顔をしたが、椅子から反動をつけて勢いよく立ち上がると、ニヤリと笑った。
 「へいへい、んじゃーな!」
 ウインクすると、マシュラはもと来たように書斎の『窓』を飛び越えて駆け去っていった。 あとには窓辺の梢が揺れるばかり。
 「貴様ー!!」
 書斎の中からマシュランボーが叫んだが、もうマシュラには聞こえていなかった。


 マシュラは駆けながら、かのひとの元へと繋がる空を見上げる。
 「ヤクモ、もうすぐ帰ってくるんだな!」
 青い空はどこまでも青く、緑の大地は広く広く続いていた。




<終>



























というわけで、こんな設定で18歳マシュラを描いてみたのでした。 マシュラにはあの元気と明るさを持ったまま、しっかりとした考えを持つ青年に育ってくれると嬉しいな、と思います。 窓から出入りするのはご愛嬌という事で(笑)

2006.12.16




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