『とらいあんぐるハートOVA 〜Sweet Songs Forever 〜』 発売記念SS
『笑顔のために……』
はじめに
このSSは読者方々の知り得る設定とは多少異なる場面があるかと思います。
それでも読んでいただける方は、暫しの間お付き合い下さい。
〜廃ビル〜
「ここか……」
恭也は一言呟くと、その廃ビルを見上げた。
そして、武装を確認し、その中へと足を進ませる。
足元には大小のコンクリートの塊が転がっている。
その中を恭也は一人進む。
周囲に恭也の足音さえの音もなかった。
数階上がった所で、恭也は足を止める。
(いる……)
周囲の気配を探りながら、恭也が壁越しに中を覗く。
『プシュ! プシュ!』
「!?」
空気が抜けるような音に反応した恭也は咄嗟に身を引くと、いままでいた所の壁が爆ぜた。
そして、奥からは足音が聞こえた。
(ちぃ……)
恭也はすぐさま中に飛び込むと、足音を追った。
片手には飛針を持った恭也が階段を上りながら上を窺う。
(この階か、それとも……)
恭也はさらに上へと続く階段を見上げた。
(よし……)
心の中で呟いた恭也は迷わず上へと続く階段に足を進める。
(おかしい……
ヤツが来ない……)
手にした二丁の銃の感触を確かめながら、周囲の気配を窺う。
(もしかして、ここにはいないと思って上へ……)
そう思ったエリスはその場から立ち上がり、階段へと向かった。
「!?」
エリスは背中に冷たい物を感じた瞬間、その場から飛び、振り向きざまにサイレンサーが着けられ
た銃を二発ずつ発射した。
その一発が黒尽くめの男の頬を掠める。
「くそ!」
エリスは口汚く相手を罵るとその部屋を飛び出した。
頬から滴る血を拭おうとはせずに、恭也はエリスを追う。
そして、屋上に辿り着く。
目の前に白いスーツ姿のエリスが立っている。
手には銃が握られている。
「タカマチ、キョウヤ……」
エリスが恭也の名前を呼びながら銃を構えた。
「今回こそ勝つ……」
「エリス……」
恭也もエリスの名を呼び、飛針を手にした。
二人は円を描くように回る。
一瞬早く、恭也は飛針を放った。
「ち!」
エリスは避けきれないと思った飛針に銃を撃つ。
数本の飛針が弾けた。
続けてエリスは恭也に銃を向ける。
両方の銃の引き金を交互に二回ずつ引き絞った。
銃口から解き放たれた黒い物体が恭也に向かう。
「く!」
エリスの持つ銃の銃口から弾道を予測し、その場から跳ぶ。
「甘い!」
エリスは恭也が跳んだ方向と着地地点に向けて三発ずつ銃を撃つ。
恭也は鋼糸を飛ばし、屋上の周りを囲んでいる金網に巻きつけると、思いっきり引き銃弾をかわす。
だが、全ては避けきれず、一発が恭也の太ももに当たった。
(く……)
受身を取りながら恭也は着地すると、そのままエリスへと向かった。
迫りくる恭也にエリスは銃を構え、一発、そしてもう一発撃った。
しかし、直線的に撃たれた銃弾は恭也にとっては容易く避けられる物だった。
(あと二発……)
恭也はエリスに迫りながら残った飛針を二本残し、全てを放った。
「!?」
エリスが恭也ん放った飛針を横に跳びながらかわす。
すると、恭也は先ほど自分がやられたように残った二本の飛針を放つ。
「ま、まだ……!」
エリスは迷わず飛針に向け銃を構えると、二発発射した。
恭也とエリスの中間点で飛針が爆ぜた。
(よし……)
飛針が爆ぜた瞬間、恭也は痛む足へ鞭を打つように足を速める。
そして、エリスの喉元に小太刀の刃をつける。
それと同時にエリスも恭也のこめかみに銃を突きつけた。
「相打ちかしら……」
「弾はもう残っていないだろ……」
恭也の言葉にエリスが『クスリ』と笑う。
「どうかしら……、試してみる?」
ゆっくりとエリスが引き金に指を掛ける。
『ゴクリ』と恭也の喉が鳴った。
『カチッ……』
撃徹が動く金属音が響いた…………
「俺の勝ちだな……」
「そのようね……」
恭也は小太刀を、エリスは銃を懐に仕舞う。
「足、大丈夫……?」
恭也の足を見ながらエリスが聞く。
「大丈夫だが……
ゴム弾も意外と痛いな……」
エリスの銃から放たれたゴム弾が当たった所を摩りながら恭也が言った。
「あ、頬も怪我してるじゃない……」
「エリスが最初に放ったゴム弾が横を抜けたからな……
その風圧のせいだろう……」
すでに固まった頬の血を確かめるように恭也は触る。
「心配する程の怪我じゃない」
そう言うと、恭也は少し足を引き摺るような感じで歩き出す。
エリスはそっと恭也の隣に行くと、歩きやすいように恭也を支える。
「エリス……」
「……このあと仕事でしょ……
一緒に仕事する相手が怪我したままじゃ、依頼人は守れないからよ……」
頬を少し赤らめながらエリスが言った。
「……ありがとう、エリス」
「ふんっ……」
「行くか……
俺達の……、大切な友人の笑顔を守るために……」
「ええ……」
そして、エリスと恭也は今年もフィアッセ達の待つコンサート会場へと向かった…………
〜〜あとがき〜〜
『とらいあんぐるハートOVA 〜Sweet Songs Forever 〜』発売記念SS、
『笑顔のために……』でした。
第一巻を見て考えたSSなので、OVAの内容とはまったく関係はありません。